vision50の防災からは、これまでの概論から、実際に地区防災計画を作っていくということに段階を移していきたい。
そのために必要な視点は、地域から何を積み上げていくのかという点と、内閣府からの「みんなで作る地区防災計画」というトップダウンだ。
この両輪を上手く使いこなすことで、実際に機能する地区防災計画を作成することができるはずである。
なぜ最初に集まる場が必要なのか

地区防災計画と聞くと、行政が作る文書や、専門家が立案する計画書を想像する人が多いのではないだろうか。しかし、実際に災害が起きたときに初動を担うのは私たち住民である。だからこそ、机上で終わらせないためには、まず市民同士が顔を合わせる「場」を持つことが欠かせないのではないだろうか。
最初から大人数を集める必要はない。むしろ初期段階では、自治会の役員や防災担当、民生委員、学校や保育園の関係者、顔の広い商店主など、地域の事情に詳しい人を5〜10人程度集めれば十分かもしれない。大事なのは、防災の知識量よりも、人と人とのつながりを持っているかどうかである。
行政の場を「顔合わせの場」に変える
次に行政の防災担当課に相談して「地区防災計画の説明会」を開いてもらうのもよい方法ではないだろうか。この説明会を単なる情報提供の場にするのではなく、地域のキーパーソンが顔を合わせる機会として活用するのである。行政の看板があれば、普段なかなか会議に来ない人も足を運びやすいはずだ。
このとき、初めから計画の細部に入る必要はなく、むしろ、最初は地域の過去の経験を共有する方が有意義であろう。「あの年の台風で川があふれそうになったときのこと」や「停電のときにどこから発電機を借りたか」など、具体的な記憶を持ち寄ることで、防災の話が急に自分ごととして立ち上がってくる。
得意分野を自然に見つける
話し合いの中で、誰がどんなことを得意としているかを自然に見極められるのではないだろうか。体力のある若手は物資運搬や避難所設営が向いているかもしれないし、地域の高齢者ネットワークを持つ人は安否確認の要になるかもしれない。炊き出しが得意な人、車を出せる人、それぞれの持ち場は後々の計画づくりに生かされる。
この段階では役割を正式に決める必要はない。「この人ならこういう場面で頼れそうだ」という感覚を共有しておくだけでも十分ではないだろうか。
小さな成果物を残す

初めての集まりが終わったら、小さくてもよいので形に残るものをつくるとよいだろう。例えば、参加者の名前と連絡先、得意分野を書き込んだ「防災チーム名簿」や、危険箇所や気になる点をまとめた「初期課題メモ」などである。これらは完成度を求めるものではなく、「ここから始まった」という実感を持つための道具と考えたい。
次につなげる約束をする
そして必ず、次に集まる日を決めて終えるべきではないだろうか。1か月以内が理想である。間隔が空くと熱が冷めてしまう。次回は「地図づくり」をテーマにすると、参加しやすく、話も弾むだろう。地図という具体的な作業は、計画を自分たちのものとして感じるためのよいきっかけになる。
避けておきたい最初のボタンの掛け違い
地区防災計画のために「場」が必要、ということかを発端に、コアメンバーを固めて、小さくてよいので、形を作り、成功体験を積み上げていくということでまとめたが、筆者としては、この最初のコアメンバー構成でひどく失敗したことがある。
地域で活動されている方はほとんどがボランティアであり、一方、コミュニティ形成がひとつのビジネスになる方もいる。地域でのボランティア活動をされている方の多くは、無償で行っていることに価値と誇りを見出している。
業務やビジネスで関わっている方の多くは、それを生業にしているわけで、一人社長や一人親方なら誰も文句はないが、会社員である場合は、困ったことに「成果」が求められているケースが多い。
この立場を乗り越えて、最初にどうコアメンバーを固めるのか。
始めるのは意外に簡単だが、メンバーの意思や動機をきちんと織り込まないと、その後、大きな軋轢を生んでしまうことになる。地区防災計画への障壁は、制度や手間とかではなく、地域のコミュニティ運営そのものに関係する。
<文責:山口達也>