大阪市学校財産無償譲渡差し止め請求事件

大阪市学校財産無償譲渡差し止め請求事件
旧大阪市立工芸高等学校[大阪市阿倍野区]
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2021年10月19日
大阪市立大学は統合され、大阪市は大学における独自の教育政策と権限を失います。そして高等学校という教育機関も失い、大阪市は小学校と中学校を有するのみです。地方の一般都市と変わらない自治しか残らない状態です。しかも、大阪市では小中学校の統廃合が進んでおり、学校数は急速に少なくなり、大阪市は公教育から撤退する意思を示しているといえるほどの教育放棄が進んでいます。
目次

市立高校22校の土地・建物が無償で大阪府に譲渡される理不尽と背任

市長があげるって言ったから、1500億円の財産を大阪府に譲渡

昨年[2021年]12月の大阪市議会で2022年4月をもって市立高校21校を廃止し、府に移管することが決議されました。理由は、おおさか維新の会が訴え続けている二重行政の弊害解消ということだが、大阪府と市の教育行政ではそんなものはなく、明治以来、府は中等教育を担い、市は商工業に利する実業教育を行うことで、現在に至るまで住み分けがされています。

しかし、議会で決議されたのは高校の廃止だけであるにもかかわらず、条例だけで市立高校22校の土地・建物が大阪府に無償譲渡されてしまった。その額は、大阪市公有財産台帳で1500億円にのぼり、市場価格では3000億円以上になるとの試算があります。これほどの巨額な財産が、市長の「府にあげるから」という意思決定だけで決まってしまったという冗談のような話が現実化しようとしています。

ことのはじまりは、大阪市を廃止する住民投票の1年前。大阪市がなくなるという前提のもとに、2019年5月に松井市長が施政方針演説で市立高校移管を表明したことでプロジェクトチームが発足します。しかし、2020年11月1日に大阪市廃止構想は否決され、市立高校移管に実質的な意味はなくなり、教育的配慮からすれば、移管は中止されるべきでした。にもかかわらず、1か月後の12月9日の議会で市立高校廃止を決定しました。ここに教育行政としての役割は機能せず、ただただ政治的意図と、大阪市の財産という利権への執着のなせる議決であったことは明らかです。
(※大阪市立の高校は現在21校。うち3校の再編整備により、来年4月時点では一時的に学校数が増え22校になる)

「無償譲渡やめてんか」の住民訴訟始まる

12月の議決と土地・建物の無償譲渡という事実を受け、市立高校卒業生らにより「大阪市民の財産を守る会」(以下守る会)が結成されます。守る会は2021年7月、大阪市の財産を大阪府に無償譲渡することを差し止めることを求め、住民監査請求書を提出。

この監査請求で求めたことは次の3点。
  • A 地方公共団体相互間の経費の負担区分に関する地方財政法の規定に違反する(地方財政法28条の2等違反)
  • B 普通地方公共団体の剰余に関する地方自治法の規定及び大阪市財産条例に違反する(大阪市財産条例16条違反)
  • C 地方自治法232条の2違反

大阪市が根拠としている「大阪市財産条例16条」は、「第16条 普通財産は、公用又は公共用に供するため特に無償とする必要がある場合に限り、国又は公法人にこれを譲与することができる。」というもので、ここでは市長による裁量が認められるとまでは記載されていない。

提出された請求人の陳述では、次のような内容が審査委員に投げかけられています。

  • 大阪市に高校運営する力がなくなったわけでもないのになぜ大阪府に移管しなければならないのか。
  • 市教委は、高校の土地、建物、備品などをなぜ無償譲渡とするのか。有償譲渡、無償貸与ではなぜだめなのか。
  • 巨額な市民の財産を無償譲渡するにあたって、議会に諮っていないことに驚く
  • 市立高校の府への移管は、教育自治の放棄である。
  • 松井市長の独断による財産の無償譲渡は、市民と議会を軽視したもの。抱く大な金額の資産が理由も明示されないまま無償譲渡することは説明責任を果たしていない。
  • 今日に至るまで、市立高校は多様な人材を経済界に輩出してきた。現在もますます市立高校の重要性が増している。
  • 大阪市の教育政策の大きな変更であるにもかかわらず、十分な検証と議論が市民に開示されていない
  • 市立高校の府への無償譲渡は、民意への裏切りである。
  • 市立大学や市立高校は市民が自分たちの税金で建てたもの。大阪市の財源と権限を守ることができない市長と市会議員には退散してもらうしかない。
この住民監査請求の審査結果が9月24日に通知され、請求には理由がないと「棄却」とされました。
しかし、請求で求めた「大阪市財産条例16条違反」と「議会の議決が必要」については、これを認めました。

条例違反と議会軽視を続ける大阪市長と教育委員会

監査委員の判断内容は、請求人が求めたことを一定程度認めた内容となっています。
ポイントについては画像で見も手いただく方がわかりやすいと思いますが、「大阪市財産条例16条」の適用については、「大阪市財産条例16条による市長の判断での譲与は許されず、議決が必要。」と判断されました。
大阪市財産条例16条による市長の判断での譲与は許されない
判断の理由として、「施設移管に伴う極めて大規模な財産の譲与などについて、条例制定時において想定されていたとは到底考えられず、市長の判断で譲与を行うことは、同条項の適用が予定されている範囲を超えるものと解さざるを得ない。」となっています。

また、付言が加えられ、「今後の事務に当たり留意すべき点等」として、
無償譲渡にかかる議案の提出について再度慎重に検討されたい。
大阪市財産条例16条について「特に無償とする必要がある場合」の基準の明確化などの検討を行われたい。
という点が指摘されています。
無償譲渡にかかる議案の提出について再度慎重に検討されたい。
今回の大阪市立高校の土地・建物の大阪府への無償譲渡は、松井市長と教育委員会による独断的な思い込みと、否決されかねない議会審議を回避するための姑息な手段によって、自分たちの政治目的となっている大阪市の財産を奪い去ろうというものに他なりません。

条例を自分たちの都合の良いように解釈、適用し、できる限り議会審議を避けて都合良く政策を進めようとする姿は、独裁政治であり、独裁につきものの利権を食い尽くさんとする浅ましさの現われです。

守る会では、10月7日、請求が棄却されたことを受け「大阪市長は大阪市立の高校の不動産を大阪府に譲与してはならないとの判決を求める。」住民訴訟を提訴。
来年[2022年]4月1日の移譲と以上契約の停止を求めていく考えを示しています。

市長と議員の背任行為で大阪市から高等教育が消えた

UCOは、市立高校の廃止、市立高校の財産の無償譲渡の問題点は、教育という住民自治の柱の一つが毀損されたことと、市民の財産を守る意思のかけらもない議員、市長が選ばれてしまっているという2点にあると考えます
教育は住民自治の重要なテーマ
2022年4月をもって、270万市民を抱える政令都市である大阪市から、すべての公的高等教育が失われてしまうことに大きな失意を覚えます。明治に開学した大阪市立大学は統合され、大阪市は大学における独自の教育政策と権限を失います。そして高等学校という教育機関も失い、大阪市は小学校と中学校を有するのみです。地方の一般都市と変わらない自治しか残らない状態です。しかも、大阪市では小中学校の統廃合が進んでおり、学校数は急速に少なくなり、大阪市は公教育から撤退する意思を示しているといえるほどの教育放棄が進んでいます。
地方自治の重要な分野として、都市計画、公衆衛生、教育、交通などがあげられます。特に政令都市のような大都市において、経済や医療、行政機関へと排出するための人材育成機関としての高等教育は、住民自治の基礎ともいえるものだと考えます。
このように教育をないがしろにし、住民自治を毀損することを進める市長や議員しか頂けない状態は、市民から未来を奪っているに等しいでしょう。目先の住民サービスでつられて、本来持つべき自治を手放すという、本末転倒な行政が行われていることを多くの市民に知ってもらいたいと思います。
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