明確になった市長の法令無視と独断による教育への介入

大阪市の教育自治を崩壊させた高校教育からの撤退 明確になった市長の法令無視と独断による教育への介入
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大阪市の教育自治を崩壊させた高校教育からの撤退

地方議会における悪例を追認した一審判決

大阪市立の高校22校を府立高校にする「高校移管」と、それに伴い、市公有財産台帳価格で総額1500億円にも上る高校の土地建物を含む財産を府に無償譲渡するという決定が違法であるとして、差し止めを求めた住民訴訟は、2022年3月25日に判決が言い渡された。結果として原告らの請求が棄却された。
判決のポイントは3点。
  • 「第二百三十二条の二 普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができる」のか。
  • 「高校移管には公共性、公益性があり、土地、建物の無償譲渡には合理性がある」のか。
  • 「市立の高校廃止」を議決において、土地、建物を無償譲渡する議決」はあったのか。
判決では、事実認定として、
 平成26年(2014)1月の大阪府市統合本部会議、大阪市戦略会議において「大都市制度実施(いわゆる大阪都構想=大阪市廃止)に合わせて大阪府に統合することを決定していたことを挙げ、その内容として、一元化の対象、時期、財産の無償移譲について決定していたとした。それを受け、令和元年(2019)5月の大阪市長の施政方針演説でも大阪市立高校の大阪府への移管は表明されていたことを挙げる。また同年8月27日の教育委員会議で基本的な考え方も可決していたことを掲げている。この時の内容も、大阪府市統合本部会議、大阪市戦略会議での決定をそのまま引き継いているものとしている。

法的判断として
 市町村の都道府県に対する自発的、任意的な寄附であっても適用されるとした。そして、大阪市廃止を前提とした高校移管、一元化の時から、大阪市、大阪府が一貫して無償譲渡を含め前提としていたことを持ち出し、両議会がこの移管案件に関与し、是認する意思表示をしたといえるから、地方財政法が禁止する「転嫁」にはあたらないとした。

 またその中で、大阪市会において「高校廃止、移管について財産譲与を行うことを認める趣旨の議決がされたと認められる」とした。

 高校移管の公共性、公益性の観点では、大阪市の公工事業を大阪府に移管するにあたっては、事業を一括して移管するものだから、「事業で供されていた人的、物的資産を、積極財産、消極財産全てを併せて移転させるものとなっている。」とし、不動産資産の無償譲渡だけでなく、起債償還費などの負債も大阪府が負担し、教育内容や組織・人員なども含まれているので、そのような財産を移管前の事業主(大阪市)から移管後の事業主(大阪府)に受け継がせるのだから、教育環境の変化による悪影響を回避する意味からも、人的、物的資産のすべてが必要だから、合理性があるとした。

どういうこと? 誰も校舎を渡さない、使わせないといっているのではない、財産権まで渡す必要かあるだろうか?
それ以前に、住民投票によって「大阪市廃止」は反対多数で決着しているのに、それを前提とした「大阪府市統合本部会議、大阪市戦略会議」の決定を持ち出して、その決定が継続していたとするのはさすがに無理があるのではないか。すでに府市統合本部は解散している。

この判決で一番問題となるのは、「「市立の高校廃止」を議決において、土地、建物を無償譲渡する議決があった」と裁判所が追認したことだ。裁判では、原告側が本議決に係わった市会議員全員に対して、アンケートを実施し、その結果が裁判所に提出もされている。このアンケートは、財産無償譲渡の説明の有無や議決に財産譲渡が含まれていたかどうかを問うたものだが、各議員の回答がまったく一致せず、議決に財産譲渡を含むとした議員が少数であったこと。そもそも提出された議案内に無償譲渡の内容が全く記載されていない議案の議決をもって、「財産譲与を行うことを認める趣旨の議決がされたと認められる」ということを認めれば、全国の地方自治に悪影響を及ぼしかねないご判断である。

教育委員会が機能していない大阪市の教育行政

これまで4回に渡って報告してきた「大阪市立高校の財産無償譲渡問題」は、現在控訴審が進行している。2022年12月20日に行われた控訴審の口頭弁論で、原告側から提出された意見書から、教育委員会が市民のための自治として全く機能せず、松井市長による暴力的かつ独断といえる教育介入を許してきた実態が明確となった。

その実態を明らかにしたのが、冒頭の意見書だ。大阪市の教育委員長を務めた矢野裕俊氏(武庫川女子大学教授)が、教育行政の観点から、この高校移管にかかわる経過を教育委員会における会議を改めて調査し、法的側面からの裏付けを確認したうえで、意見書としてまとめられたものだ。

教育行政における首長と教育委員会の権限と義務

地方教育行政法によって自治体の教育事務は規定されており、その中で、首長(大阪市長)と教育委員会それぞれの職務権限と義務が決められている。
そこでは首長は、次の3点の権限を持つ。
  • 首長による「大綱」の策定
  • 首長が招集する総合教育会議の設置
  • 教育長の設置
ここでいう大綱とは、「教育、 学術及び文化の振興に関する総合的な施策の大綱」であり、地域の教育の基本的な在り方を示す文書をいう。
大綱は、首長の独断で定められたり変更されたりすることができないよう「総合教育会議」(首長と教育委員会で構成)の設置とともに規定されている。

一方で教育委員会は、19の職務権限を持つと定められており、そこでは「教育行政の事務を執行する主たる権限は教育委員会にあることが明確となっている。

大綱と総合教育会議で一度も議題となっていない高校の府への移管

大阪市総合教育会議は、2015年(平成27)年4月28日に第1回会議が行われており、これを起点に2021年(令和3)までに19回開催されている。
この中で、大阪市教育振興計画(大綱)の策定を含めて議論がされているが、そのいずれにおいても市立高等学校の府への移管については、一度も議題として取り上げられていないことが明らかになっている。
そして、2021年(令和3)3月の大阪市教育振興基本計画では、「市立高等学交の将来構想の検討」という項目があり、「各高等学佼がその価値を一層高め、将来にわ たって強みを発揮していくことができるよう」に取り組みを進めていくことが謳われてもいる。ここでは、高校の府への移管を前提とした議論はされておらず、将来構想が語られている。
にもかかわらず、2022年(令和4)3月策定の大阪市教育振興基本計画では、突然市立高等学校が府へと移管されることが既成事実として扱われるようになっている。この間、前年度に提唱された「市立高等学交の将来構想」に関する検討については、変更するという言及もないまま、また、府への移管という経緯説明も全くないまま「大阪市教育振興計画(大綱)」から消えてしまっていた。
判決内容にもあった大阪市長の「施政方針演説での大阪市立高等学校を府へ移管するという宣言」は、責務であるはずの大綱にもとづくものではなく、また総合教育会議によるものでもなく、法令を無視し、かつ、主たる権限を持つ教育委員会をも無視した越権行為であったことが明白となっている。

高等学校教育からの完全撤退という重大な行政の不作為

ここまで矢野教授の意見書をもとに市立高校の府への移管や無償譲渡について事の経過をたどってきた。ここまでに明らかになったのは、大阪市廃止を前提とした政治的な事案として市立高校の府への移管が発案されており、住民投票での否決後もその方針を住民の意思を無視して進められたこと。そして、本来教育行政の主たる権限を持つ教育委員会が職務を放棄し、教育行政に対して何の権限も持たない大阪市戦略会議が決定したことを何の意見や疑問を持たず受け入れていること。そして、法的に定められている「大綱」や「総合教育会議」に諮ることなく、進められてきたことである。
矢野教授が意見書の中で書かれているが、住民等で大阪市廃止に反対した「住民の意思を受け止めることなく、かつて府市統合本部において策定された計画を押し通そうとした市長およびそれに追従し、自らの所管事項に関する真摯な誂諭を怠ってきた市教育委員会の姿勢は、市民に対して責任を負うべき教育行政の 責任を投げ出すもの」として大いに批判されるべきである。また、「条例制定による大阪市高等学校教育審議会の廃止や大阪市立高等学校学則の廃止などは、市教育委員会が主管してきた高等学交教育からの完全な撤退を示すものであり、重大な行政上 の不作為として看過できない問題をはらんでいる。」ことはもっと大きく取り扱われるべき問題である。

裁判は控訴審へ、そして新たな損害賠償請求訴訟の提訴へ

さて、本裁判は2023年5月に地裁の判決を受け、控訴が行われた。また、裁判所の判断により、すでに府へ移譲された高校財産の損害賠償については、新たに松井大阪市長を被告として提訴している。当初の21校のうち、2023年3月の段階で、17校が財産譲渡されている。移譲された財産については移譲差止から損害賠償に訴訟要件を変更する必要がある、と同時に被告を松井大阪市長に変更する必要があることから、新たな損害賠償訴訟が必要となっている。一方で残る4校分については、控訴を提訴し、引き続き以上について争うこととなっている。
裁判構成が複雑になってきたが、本件については、6月21日に次回口頭弁論が行われる。原告団が開催する報告会の取材を予定している。この裁判の問題点と行方については、弁護団にインタビューを申し込んでいるので、改めて報告する。
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