副首都ビジョンは、大阪市民全員の総意ではない
先週9月12日に17回目となる副首都推進本部会議が行われた。2021年に府・市一体化条例が制定されるとともに、副首都推進局が設置された。そこで描かれたビジョンの一つが大阪・関西万博だった。政府・自民党が少数与党となって以降、吉村大阪府知事(大阪維新の会代表)は、盛んに「大阪副首都構想」を口にし取り入ろうとしている。そうした背景もあってか、今回行われた会議では「Beyond EXPO 2025」というテーマが掲げられ、これまで2050年としていた副首都実現を10年前倒しし、2040年実現に向けてこの動きを加速させるという。
だが、この事業の構造が「大阪市の自治」を阻害していることはあまり知られていない。
今回の会議資料の「策定趣旨」にはこういう但し書きがある。
「Beyond EXPO 2025は、「大阪府及び大阪市における一体的な行政運営の推進に関する条例(2021年4月施行)」に基づき、大阪府が大阪市から事務委託を受けて策定」
「策定された戦略は、府市共通のビジョンとして位置付け、府市それぞれにおいて、具体的な施策を検討し、実施する」
Beyond EXPO 2025という副首都ビジョンという事業は「大阪市が主体となって行う」事業だが、大阪市は「大阪府に事業を委託し事業計画を策定してもらう」。策定した戦略は府市共通のものとし、それぞれで実施する。ということになる。夢洲の開発でもうめきた開発でも同じような枠組みで行われているのだが、実施主体が大阪市となっているため、事業費の多くは大阪市の負担比率が多い。しかし事業内容は大阪府が決めて、大阪市がそれに基づいて事業推進し、事業費も払う構図だ。府・市一体という名のもとに、現在の大阪市は都市開発・まちづくりについては大阪府の考える計画に従い、実施するしかないというかたちになっている。
この副首都ビジョンは、少なくとも大阪市民全員が望んで進めている事業ではないことを念頭に、話を進めよう。
「なぜ副首都が日本に必要か」というもっともらしい論旨
まず、大阪府・市が唱える「副首都」という定義が、現在出されている資料からはなかなか読み取れない。2020年3月に策定された「副首都ビジョン~副首都・大阪に向けた中長期的な取組み方向~」の冒頭にこのような文言が並んでいる。
※筆者による要約
- わが国は、戦後の高度成長期から今日まで一貫して東京一極集中が進んでいる。
- 低迷が続く日本全体の成長力を高めるため国全体の成長をけん引する国際競争力を持つ拠点都市を複数創出することが望まれる。
- 災害リスクを抱えるわが国において、東京以外にも日本を支える拠点都市を戦略的に確立することが必要
- 中央集権型システムを打破し、地域の自己決定・自己責任に基づく分権型の仕組みへの転換を先導する都市をつくる
国の経済を憂い、中央集権型から地方分権への転換を図る、そのけん引役として大阪が1番に名乗りを上げる、ということなのだろう。その志は理解できるが、すべては経済成長が目的であり、経済を基礎とする国際競争力を高めていくという理解でよいのかと思う。
確かに経済は低迷しているかもしれない。しかし、経済成長がそのまま都市の魅力や豊かな都市に直結するものでもないのではないか。
また、副首都・大阪が果たすべき役割として次の4点が示されている。
- 「西日本の首都」(分都)として中枢性・拠点性を充実
- 「首都機能のバックアップ」(重都)として平時を含めた代替機能を確保
- 「アジアの主要都市」として東京と異なる個性・新たな価値観を発揮
- 「民都」として民の力を最大限に活かす都市を実現
この内容は、現在も引き継がれている。
今回の会議資料の中でも下図のように「副首都・大阪の役割」が掲げられている。
「平時の日本の成長エンジン」と「非常時の首都機能のバックアップ」
◇ 「変革を先取り魅力にあふれワクワクする都市」として、国内外から多くの人や投資を惹きつける副首都
- 西日本の首都~中枢性・拠点性~
- アジアの主要都市~東京とは異なる個性・価値観~
- 首都機能のバックアップ~平時を含めた代替機能~
- 民都~民の力を最大限に生かす~

この図に冒頭に書かれているように、目指すところはこの2点である。資料内には、この10年間に進めてきた取り組みによって大阪の経済力が増し、都市としての魅力が高まった、という前提である。そのため、万博を契機とした更なる飛躍のために、これまでの戦略をより進める、としている。

重点分野として「世界に伍する経済力・都市力を実現」とある。ここで言われている世界とは、ニューヨークやロサンゼルス、ベルリンやフランクフルト、北京や上海を言うのだろう。2020年の資料の「拠点都市」として挙げられている。
しかし、こうした都市が経済力だけでヒトやモノ、カネが集まってきているわけではない。しかし副首都ビジョンで示されているのは、イノベーション先進都市による経済力であり、エンタテインメントを核とした「都市力」なのだ。イノベーション技術は必要だが、それだけに頼った都市でよいのか。エンタテインメントが原動力の都市力でいいのかと思ってしまう。
果たしてそうしてかたちづくられたまちが、ここで言う「居心地の良い大阪」なのだろうか。
今回提示された資料で示されているのは、現在の大阪は、様ざまな視点から総合力として優れた都市だ、という統計資料に基づいている。だが、その資料からも、現在の大阪が抱えている課題やよるべき方向性が読み取れるのだ。大阪府・市が示す副首都ビジョンによっては、そうした課題は何も解決しないということが見えてくる。次回は、さまざまな統計をもとに、副首都ビジョンが示す大阪とは異なる現状と課題を考えてみたいと思う。
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