「防災と自治」3—情報が命を分ける

進化する自治 vision50防災・減災
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はじめに:情報の有無が生死を分ける

災害が発生した瞬間、人々がまず直面するのは「情報の断絶」である。どこが危険なのか、どこに避難すべきか、家族は無事なのか。電気や通信が止まった状況下では、これらの基本的な情報すら得られず、人びとは不安と混乱に包まれる。

情報とは単なる「データ」ではない。それは行動を促すものであり、生死を分ける判断を導くものであり、また人と人とをつなぐ「信頼の媒体」でもある。災害時における情報共有の仕組みをどう整備し、それを地域の中でどう回していくか。この問いは、防災の実効性を大きく左右する根幹にある。

東日本大震災の教訓——情報の届かなかった避難者たち

2011年の東日本大震災では、多くの自治体や住民が津波の危険を認識していながら、避難の遅れによって多数の命が奪われた。防災無線が機能せず、電源が落ち、携帯も繋がらず、情報が「流れなかった」ことが致命的であった。

さらに問題なのは、「情報があっても信用されなかった」ケースである。例えば過去の避難訓練が形骸化していた地域では、いざ避難指示が出ても住民が真剣に受け止めず、避難が遅れた。これは情報の「信頼性」と「流通構造」の両方が欠けていた証左である。

つまり、情報の有無だけでなく、「誰が」「どのように」「どこに向けて」発信するのか。その関係性の中でしか情報は意味を持たない。

情報の分断が生む「見捨てられ感」

被災地では、正確な情報が届かないことが、被災者の精神的な苦痛を著しく増幅させる。特に孤立集落や高齢者世帯では、「自分たちは忘れられているのではないか」「もう誰も助けに来ないのではないか」という深い孤独と不安が広がる。

この「見捨てられ感」は、被災直後の心理的ダメージだけでなく、回復期にも影を落とす。災害関連死の一因となる精神的ストレスは、実はこのような「情報の空白」から始まっていることが少なくない。

ゆえに、災害時においては「情報そのものが支援」である。そしてそれを届ける主体として、行政だけでなく、地域の中間支援組織や住民組織の存在が極めて重要となる。

自治の単位で構築する情報網

災害時、行政の情報は主に「市区町村単位」で発信される。しかし、実際に人々が動く単位は「町内会」や「班」「隣近所」である。このスケールのズレが、災害時の混乱や情報伝達の断絶を生む。

ここで必要になるのが、「自治の単位」での情報共有網である。たとえば、地域ごとに情報連絡員を置き、携帯メールやLINE、無線、掲示板など複数の手段で連絡をとりあう体制を整備する。重要なのは、「通信手段を多重化する」ことと、「誰が誰に何を伝えるか」を平時から明確にしておくことである。

加えて、災害時に役立つ「地域防災マップ」や「安否確認カード」の作成と共有も、情報の交通整理を可能にするツールとなる。情報が有機的につながり、人と人との連絡線となるような設計が求められる。

デジタルとアナログの融合

現代社会において、防災アプリやSNS、防災無線、テレビのデジタル技術は非常に有効である。しかし一方で、停電や通信障害が発生すれば、すべてが一瞬で使えなくなる可能性もある。

そこで重要となるのが、アナログの復権である。例えば、町内に掲示板を設け、被災時には避難情報や物資支給のタイムスケジュールを手書きで掲示する。手旗信号やメガホンを使った伝達、各家庭に設置された安否確認フラグ(赤・緑のカードなど)による状況把握も効果的だ。

デジタルとアナログ、それぞれの長所と限界を理解し、複層的な情報体制を地域で整えておくことが、命を守ることにつながる。

子どもや高齢者を情報弱者にしない

情報伝達において見落とされがちなのが、子ども、高齢者、外国人、障がいをもつ人など「情報弱者」である。彼らは災害時に必要な情報を受け取る手段も少なく、内容の理解や行動にも時間がかかる。

この層に情報を届けるには、平常時から地域での見守りネットワークが不可欠である。近隣で声をかけ合う、小学校で避難経路を共有する、多言語の翻訳チラシを常備する。こうした日常的な取り組みが、非常時に力を発揮する。

自治の力とは、こうした人びとに寄り添う情報の「翻訳者」「橋渡し役」が地域に存在することであり、その仕組みを作っていくことこそが、情報弱者を守ることである。

情報を共有することは、責任を共有すること

「知っているのに行動しなかった」という後悔は、災害後に多くの人が抱える。情報を共有するとは、それにともなう責任を分かち合うことでもある。

どこで火災が起きた、どこに人が閉じ込められている、どの道が通行止めか。こうした情報が自分に届いたとき、それを黙っているのか、誰かに伝えるのか。その判断が次の命を救う。

地域の中で、情報を受け取る「受信者」から、情報を広げる「発信者」へと意識を変えていくこと。これもまた、自治の再構成の一つの姿である。

結びにかえて:情報はつながりの中でこそ力を持つ

防災の観点から見るとき、情報は単なるツールではない。それは信頼の回路であり、地域の関係性を映す鏡でもある。

情報が届かない場所には、孤立が生まれ、死が忍び寄る。情報が共有される場所には、安心が生まれ、行動が生まれる。情報が自治の中で流通するようになるとき、はじめて地域は自律し、持続可能な「共助」が成立する。

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