大阪カジノ住民訴訟で揺れる夢洲-6
カジノ用地の格安賃料鑑定を行った不動産鑑定業者と個人を懲戒請求
前々回、官製談合が疑われる「格安賃料」でカジノ業者優遇は市民財産のたたき売り―大阪カジノ住民訴訟で揺れる夢洲-4―でくわしく説明した通り、格安賃料設定は違法な不動産鑑定によって導き出されていた。大阪市と不動産鑑定業者4社が示し合わせた上で意図的に導き出されたのが、1㎡あたり12万円という賃料だった。格安賃料による借地権設定契約を締結するな、という第2事件「夢洲カジノ用地賃貸契約差止訴訟」の第2次原告グループは、2024年12月に適正な設定と想定される賃料と、不当格安賃料との差額によって生じた損害額を賠償するよう求める、損害賠償請求を行うことになった。
それに先立ち第2事件を提訴した1か月後の5月27日、第2次原告グループは、不当格安賃料を鑑定した不動産鑑定業者4社と不動産鑑定士10名を、大阪府不動産鑑定士協会に対して懲戒請求を行っている。
これは、裁判で提出した証拠類から明らかに不動産鑑定を行う上での独立・攻勢を損なった具体的な事実が明らかであることから行った請求といえる。
以下は、第2次原告グループの記者会見用メモによる。
「不動産の鑑定評価に関する法律」の第40条に「不当な鑑定評価等についての懲戒処分」についての条項がある。
第四十条 国土交通大臣は、不動産鑑定士が、故意に、不当な不動産の鑑定評価その他鑑定評価等業務に関する不正又は著しく不当な行為(以下「不当な鑑定評価等」という。)を行つたときは、懲戒処分として、一年以内の期間を定めて鑑定評価等業務を行うことを禁止し、又はその不動産鑑定士の登録を消除することができる。
不当な鑑定
国土交通省が定める価格等調査に関し順守すべき基準(「不動産鑑定評価基準」、「同評価基準運用上の留意事項」、「価格等調査ガイドライン」、「同ガイドライン運用上の留意事項」)などに違反した鑑定。
懲戒請求の理由は次の3点。
- 鑑定業者並びに鑑定士の義務に反している
- 鑑定評価が社会的に信頼できるものとするために、鑑定業者と鑑定士は、依頼者の意向や他の業者の鑑定評価に関する方針や鑑定情報を受けることなく、独立して公正に鑑定評価をする法令上の義務及び鑑定依頼契約に基づく契約上の義務がある。
- 登録する各鑑定士協会の懲戒規定・倫理規定違反
- 不動産鑑定士の品位・信頼を傷つける行為
- 法令・不動産鑑定評価基準等に違反する行為
- 公正・客観性を損なう鑑定評価
懲戒請求を裏付ける具体的な理由を以下の通りとしている。
- 独立・公正を損なう具体的事実
- IR事業用地の賃料鑑定であるのに、IR事業を考慮外として鑑定すること
- 土地の基礎価格を12万円とすること
- 必要諸経費を金額ではなく%で示して、必要諸経費を含む期待粗利回りを計4.3%とすること
- 鑑定手法として原価法を対象外とすること
- メトロ延伸(夢洲新駅開業)を前提としない鑑定条件とすること
- 不正行為及び著しく不当な行為
大阪市は2019年(令和元年)10月中旬にIR考慮外を鑑定業者4社に提示したと説明している。しかしarecと谷澤総合鑑定所の2社は、2019年8月の鑑定依頼契約時の日付で、IR考慮外などを含む簡易条件などを記載した確認書を締結したとしていた。つまり、日付を改ざんして確認書を作成していたことが明らかになっている。
また、日本不動産研究所と大和不動産鑑定の2社は、契約行けつまでに確認書の作成を辞退を行わないというガイドライン違反を行っている。
カジノ用地なのに想定はアウトレットモール?
これまでも格安賃料を導き出した不動産鑑定の不合理な「条件」について紹介してきた。
こうした条件から導き出された不当な格安賃料鑑定に対して、原告は「あるべき鑑定評価のあり方」を裁判を通じて意見書を提出している。
I R事業を目的として土地を賃貸するときの賃料を求めるのであれば、賃貸する時(IR事業が稼働する時)の夢洲駅の状態を前提としなければならない。これが大前提である(第一段階)。
仮に前提とすべき状態と現状が異なるのであれば、条件を設定して鑑定評価を行うこととなる。条件としては、対象確定条件、想定上の条件、調査範囲等条件の3つがあり、それらを設定して鑑定評価を行う必要がある(第二段階)。
条件設定を無制限に行うことは認められておらず、実現性や合法性など、各条件を設定するためには要件を具備しなければならない。要件を満たせば条件を設定して鑑定評価書として発行ができるが、要件を満たさなければ条件を設定した上で、鑑定評価書としてではなく調査報告書等として発行しなければならない。調査報告書等として発行する場合には、鑑定評価書として発行した場合の鑑定評価額とは異なる可能性を明記し、依頼者や調査報告書の利用者に注意喚起をする必要がある
(第三段階)。
2025年6月17日に行われた「格安賃料損害賠償請求訴訟(第3回)」の意見陳述の中で、その主張の要点として、次の2点を挙げている。
- 日本不動産研究所がカジノ用地上に想定する建物が不合理である
- 隣接する新駅開業が考慮されていないのが不当である
以下は、意見陳述からの要約で紹介する。
日本不動産研究所は、2019年10月25日の大阪市評価審議会で「想定建物の収益性に基づく土地価格の検証」という資料を提出している。これは日本不動産研究所が、収益性の観点から土地価格が1㎡あたり12万円が適正であることを証明しようとした書面とある。この書面内では、カジノ用地49万㎡にどのような建物を想定しているかが示されている。次の通りだ。
残りの46万5000㎡はすべて駐車場ということになる。
また被告は、カジノ用地の鑑定の比較対象として、超広域商圏型商業施設を例示しているのだが、それは以下の通りだ。
- 神戸三田プレミアム・アウトレット
- 軽井沢・プリンスショッピングプラザ
- 酒々井プレミアム・アウトレット
- 千歳アウトレットモール・レラ
46万5000㎡の駐車場が必要なアウトレットモールとはどういう想定なのか。日本最大のアウトレットモールである「御殿場プレミアム・アウトレット」の店舗面積は6万1300㎡なので、想定している店舗に近い規模だ。この施設での駐車場は7,000台収納可能。平面で確保したとしても、1台25㎡として概算しても17万5000㎡あれば事足りる。日本不動産研究所の示す46万5000㎡は、平面で1万8600台を収納する駐車場となり、かなり異常である。
これに対し被告は、例示している超広域商圏型商業施設との比較において過少な割合ではないから不当な想定ではないと主張している。これは土地価格が1㎡12万円ということを前提とした「最有効使用」とする施設ということなのだろう。
不動産鑑定の対象としている「夢洲カジノ用地」は、大阪市内に立地し、市街化区域内にある商業地域で、容積率は400%となっている。商業施設として高度利用が可能なのだ。一方、被告らから例示されているアウトレットモールは、いずれも郊外や地方圏にあり、立地条件や行政条件、商環境が異なる。原告は、
「超広域からの集客が見込まれるアウトレットモール」という共通点のみで敷地と建物の関係を比較して、「想定建物の収益性に基づく土地価格の検証」中で想定する建物が妥当であると主張すること自体が不適切な比較です。
としている
また、「超広域商圏型商業施設」として例示するならば、西日本最大の店舗面積を誇る「りんくうプレミアム・アウトレット」と比較するのが自然とだという。「りんくうプレミアム・アウトレット」は店舗面積5万㎡であり、日本不動産研究所の想定する6万㎡に近い。また敷地面積は13万3200㎡で、立体駐車場として駐車台数3200台を完備。敷地の有効利用としてグランピング施設を設けて収益力を高めていると指摘している。
原告は、建物の建築面積を3万5000㎡とし、残り46万5000㎡を平面駐車場とするのは経済合理性を欠く想定であり、そのような想定に基づく土地価格の算定は不当だとしている。
例示にせよ、想定にせよ、収益性を考慮したものとはいえず、この事例をもって「最有効使用」というのは無理がある。このように算出された1㎡あたり12万円という土地価格は不当な安価であると結論付けている。
また大阪市は、地方行政財産運営の基本原則に従い、依頼した不動産鑑定業者が示した賃料額が「適正な対価」であるか否かを独自に判断する責任を負っている。不動産鑑定評価書をあくまで一つの参考資料として、独自に「適正な価格」であるかどうかを十分に吟味・検討し、最終的に本件賃料額を決定しなければならない。しかし、大阪市が独自に検討したことを示す資料は存在せず、不動産評価審議会の指摘を受けて、大阪市が独自に検証したことを示す資料も存在しない。
カジノ用地の適正な賃料と不当格安賃料との差額分の損害を支払え!!
第2次原告グループは、不動産鑑定士の協力のもと、IR事業を考慮することや、新駅開業を前提とすることなどを鑑定条件とした場合のIR用地の適切な賃料を調査した。その結果、適正な賃料との差額が本件借地権設定契約の終了する2058年4月まで、約33年半にわたり、総額1044億9656万3550円にものぼる損害が大阪市に発生することを示した。これをもって、IR用地の適正な賃料と本件賃料との差額分の損害が生じたとして、大阪市に対し、現大阪市長・前大阪市長、現大阪港湾局長・前大阪港湾局長のみならず、IR事業者、IR用地の鑑定を行った不動産鑑定業者4社、そして、実際に各鑑定に関わった不動産鑑定士17名に対して損害賠償請求を行うよう求める訴訟が2024年12月16日に提訴された。
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