自治体新電力は、地域にどのような影響を与え、地域内ではどのように位置づけられているのだろうか。また自治体が新電力事業を持つことで、どのような地域づくり、まちづくりを目指しているのだろうか。
今回は、市独自の自然エネルギー条例を掲げる滋賀県湖南市に設立された「こなんウルトラパワー株式会社」を訪ねた。
エネルギーの自治推進を求める市民と行政
湖南市はその名の通り、琵琶湖の南側に位置する25,359世帯、総人口53,963名の地方都市(2025年4月30日現在)。鉄道(JR西日本・JR東海)、高速道路(名神高速や京都縦貫道など)、国道1号線などで名古屋、京阪神と結ばれている。

湖南市のある滋賀県は、「琵琶湖条例(滋賀県琵琶湖の富栄養化の防止に関する条例)」(1974(昭和54)年制定)で知られる環境先進県。当時、りんを含む家庭用合成洗剤の排水によって琵琶湖が富栄養化し水質が悪化していた。近畿の水がめと言われる琵琶湖の水質汚染は、流域全体の問題であるとともに、「さまざまな人間活動を支えてくれた琵琶湖を、今、われわれの世代によつて汚すことは許されない。」という強い思いのもとに制定された。当時としては画期的な行政として話題となった。
その後、1997(平成9)年に京都で開催されたCOP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議)を契機に市民共同発電所が全国で立ち上がる。とりわけ今回の湖南市は、同じ年に全国初の「市民共同発電所」を設置した。市民共同発電所はエネルギーの地産地消、エネルギー自治への機運醸成、低炭素社会づくり、環境学習に資することなどを目的としており、市民が早い時期からエネルギーの自治推進を進め、この動きは県内全体に広がっていった。
その後も湖南市内各所に市民共同発電所が設置されている。こうした市民の動きに呼応するように、湖南市は、"地域に存在する自然エネルギーは地域固有の資源であり、地域自然エネルギーによる地域振興を行う"ことを宣言した「湖南市地域自然エネルギー基本条例」を2012(平成24年)に策定している。
市民共同発電所
市民による出資や寄付を財源として地域が主体となって設置するもので、
エネルギーの地産地消、エネルギー自治への機運醸成、低炭素社会づくり、環境学習に資する。(出典:滋賀県・新しいエネルギー社会の実現に向けて https://www.pref.shiga.lg.jp/ippan/kankyoshizen/ondanka/16964.html)

もともとエネルギーの自治推進という意識を持った市民と行政の動きに、電力自由化や小規模の新電力会社が立ち上がり始めたことで、地域で発電した電気を地域で使っていくことが実現することが可能となってきた。ただ発電しているだけでは電気は電力会社に流れていくだけで、どこで使っているかはわからない。つまり、発電だけでは地産地消にはならないだけでなく、自然エネルギーを地域で使うことにはならない。地域で発電した電気を販売する小売事業が必要だった。
一方、電力自由化を契機に小規模の新電力会社が各地で立ち上がる中、国や地方公共団体のコンサルティング事業を行ってきたパシフィックコンサルタンツ株式会社が、再生可能エネルギーによる地域事業を立ち上げ、地域の課題解決や地域の脱炭素化を目的に自治体新電力をサポートする「パシフィックパワー株式会社」を立ち上げ、全国的に自治体新電力会社の設立を推し進めていた。
この湖南市の市民と行政による「地域で発電した電気を地域で使っていく」という動きと、エネルギー事業に興味を持って自立していく手段を模索している自治体のサポートを進めているパシフィックパワーからの提案という流れが合致した形だ。

こなんウルトラパワー株式会社の代表である芦刈義孝氏が当時を振り返る。
「湖南市さんとしては事前に調査等はされていましたので、発電をいま増やそうとしているけれども、発電だけでは地産地消にはならないし、自然エネルギーを地域で使うことにはならないので、一つの手段として小売り事業とセットでやるというのは理解されていました。ただ手段をお持ちではないので、どうやってやるのかというのは今後の検討だったんです。私どもも湖南市さんのことを知っていたので、エネルギー事業を立ち上げて動いている中で、その部分はサポートできますということでご提案しました。湖南市さんも電力小売りを本気で考えておられて、「自治体の事業として運営していく」という構想は持っておられた。いろんなところからの提案もあり、入札で事業者を選定するときに手を上げさせてもらったという流れですね。」
。湖南市の事業者選定が2015(平成27)年に行われ、こなんウルトラパワーという自治体新電力会社が誕生した。2016(平成28)年5月と全国的にも早い時期にスタートしている。
パシフィックパワー株式会社の進める自治体新電力

自治体と地域企業、専門ノウハウを有する地域外企業が、地域振興を目的として、共同出資で設立する地域エネルギー会社です。 特に自治体も出資し、地域内の発電電力を最大限に活用し主に地域内の公共施設や民間企業、家庭に電力を供給する小売電気事業を事業の柱としているものを「自治体新電力」といいます。
自治体新電力は、電気代を下げたり、エネルギーの地産地消を進めたりする効果がありますが、私たちはそれに留まらず、 自治体新電力が地方創生や脱炭素化の新たな担い手となることを目指し、それらを自治体、地元企業と協力して着実に実現していきます。
