市へのチャットトークとして陳情書を書いてみよう
秋期の大阪市会が始まる。9月18日から12月11日までの約3か月間行われる。市会が開かれれば、市民からの陳情書の審議も行われる。以前、記事「市民サービスの規定が起こす矛盾」でも紹介した通り、陳情書は市民が市民サービスや行政への要望や質問、時には提案も見受けられるのだが、議会を通して市民の思いやメッセージを届けられる制度だ。それも一方通行ではなく、陳情の内容を管轄する各部局の現在の立場や実施内容といった行政側の意見表明が行われるとともに、各委員会の委員(議員)からの質問や意見表明も行われ、採決されるという一連の審議が行われる。言ったことに対しての回答を受けることができ、陳情内容によっては各委員からの意見などを通して要望が各部局に届けられ(採択)、実現する可能性もある。たとえ採択されなかったとしても、その時々の行政の考え方やどのような経緯で現在に至っているとか、情報開示請求という手法でなくとも、行政内部でどのような調整が行われているのかということがほぼリアルタイムで受け取ることができる。電話やメールのようにはいかないまでも、少々時間はかかるが、市民と行政間のチャットトークとして活用することはできる。
現在進行中の行政判断について質問が行われた
実際に陳情書を出すことでどんな効果があるのか、今年3月に出されたある陳情書によってどのような情報が判明したかを追ってみた。
陳情第46号 夢洲の関西電力送配電による変電所建設の市有地売却について説明を求める陳情書

この陳情書は今年3月初旬に大阪市会事務局に提出されたもの。当時、夢洲IRカジノ用地に隣接する市有地(約5500平方メートル)に、関西電力送配電が変電所を建設中だった。この土地が価格面で売却が難航しているという報道が行われていた。
報道した朝日新聞によれば、市の諮問機関・市不動産評価審議会に土地の評価額を諮ったところ、算定方法などに疑問や異論が相次ぎ、算定が3回も行われた。その結果、「1平方メートルあたり約33万円(計約18億円)」という額が関西電力送配電に提示したところ、契約には至らなかったというもの。近隣するIR用地の評価額を売却で換算した場合、1平方メートルあたり12万円とあり、3.6倍もの金額のため、折り合いがつかなかったのではないかという憶測が流れていた。
朝日新聞
夢洲の市有地売却めぐり異例の展開 1年がかりの地価算定が無効に
2025年2月15日 7時00分https://www.asahi.com/articles/AST2B2CC9T2BPTIL00GM.html
この陳情書が出された3月初旬は、市が明確に情報発信しておらず、IR用地が不当に安く設定されたのではないかという疑惑があり、今後どのように対応するのかが注目されていた。そこで下記のような陳情書が提出されていた。
陳情書内の陳情項目は下記の通り。
- 陳情趣旨に記した夢洲市有地売却をめぐる動きは事実なのか、鑑定評価の経過を含めて説明を求める。
- 審議会に再諮問された約33万円という算定価格は、夢洲駅などを考慮したものか説明を求める。
- 今回の夢洲市有地売却をめぐる動きは、IRカジノ用地問題とも関係があると考えるか、大阪市としての見解を求める
3月21日の令和7年2・3月定例会常任委員会(建設港湾)で、この陳情書に対する意見表明が行われた。
当時の丸山順也大阪港湾局長は
陳情趣旨を「関西電力送配電株式会社との変電所用地の売却に向けた協議の事実関係、大阪市不動産審議会に諮問した土地価格及び今回の市有地売却と夢洲IR用地の賃料との関係について、説明を求めるもの」
としたうえで、以下のような意見表明を行っている。
関西電力送配電株式会社との変電所用地の売却に向けた協議につきましては、令和5年4月に本件土地の不動産鑑定評価を依頼し、同年6月の大阪市不動産評価審議会へ諮問したところ、保留との答申であったことから、その後、別の鑑定業者に鑑定評価を依頼し、令和6年4月の審議会に改めて諮問し、承認を得ております。関西電力送配電株式会社に対しましては、承認を得た価格を令和6年4月に提示してございますが、現時点で売却契約には至っておりません。大阪市会会議録システム
なお、改めての諮問に当たっての不動産鑑定では、令和6年度中の新駅開業を見込み、最寄り駅は夢洲駅とされております。また、夢洲IR用地の賃料と、関西電力送配電変電所用地の売却に係る提示額につきましては、それぞれ不動産鑑定業者の専門的知見の下、その時点における適正な鑑定を受け、不動産評価審議会への諮問・承認を得たものであり、適正に事務を進めてきたものでございます。
https://ssp.kaigiroku.net/tenant/cityosaka/SpTop.html
この時点で、朝日新聞の報道の記している経過を簡略して述べたうえで、金額提示から1年を経過しても売却契約は行われていない。不動産鑑定にあたっては、最寄り駅を夢洲駅としたとあり、そのために算定価格が上昇したことがわかる。なお、同委員会では共産党の井上浩議員が本件について意見表明しており、最寄り駅を意図的に3.5キロ離れたコスモスクエア駅にしている鑑定のおかしさを追及している。
陳情項目の2つ目にございますけれども、夢洲駅を考慮したんですかという項目がございまして、局長答弁では、そうですと、夢洲駅ですということなんですけれども、これももう予算委員会でやりましたんで、再度やりませんけれども、IRはコスモスクエア駅前提なんですよね。何で3.5キロ離れた海の向こうのコスモスクエア駅なんですか。海から泳いで行くんですか、IRまで。おかしな鑑定ですよね。しかも4社がみんな何でコスモスクエア駅なんですか。本当におかしな話ですよね。
なお同夢洲変電所は最終的には賃貸での契約を行うこととなり、賃料は1㎡あたり月額209円となっている。
なぜ? と こうしてほしい! を簡潔にまとめる
陳情書を核にあたっては、あまり大きな期待を持つことはできないが、すなおにこ思いを届けるつもりで書くのが良いと思う。ただ、一定の書式があるので、それに合わせて記述する必要はある。


記載の中心は、「陳情趣旨」と「陳情項目」
どちらを先に記載するかは自由だが、発想の順としては、まず何を聞きたいのか、何をしてほしいのかという「陳情項目」が先にあって、それを思い立ったのはどういうきっかけで、どういう思いを持ったのか、ということになるかと思う。文章を書きなれていなければ、話し言葉で書いてもいいし、録音してそれを書き起こしてもいい。
あまり良い参考例にはならないかもしれないが、この春大阪市が行っている禁煙プログラムの「おおさかチャチャっと卒煙」の事業内容についての陳情書を提出したので、その時の経緯とともに記しておこう。

snsを見ていると「おおさかチャチャっと卒煙」の広告が頻繁に出てくることがあった。自分は喫煙しないので何のアルゴリズムで表示されたのかはわからないが、この事業は大阪市が人集めをして、このプログラムを実施している企業に紹介するようなしくみのように思われた。まぁそれで卒煙できて健康に市民が増えるのであればよいが、その事業に税金投入する以上効果がどの程度あるのかなど、疑問に思うことがあったので、陳情で聞いてみようと思った。ただ、あまり時間もなかったので、利用者数やその属性、利用者のが利用した結果や効果、また利用実績など4項目だけを公開してもらうつもりで書いたもの。
ちょうど3月の予算内容の審査時期だったので、予算審議をしてもらうつもりもあった。なので、陳情趣旨は、予算の可否を決めるために事業の正当性を図るための情報提供をしてほしいというものにした。
陳情書についてのくわしくは、大阪市会サイトの「請願・陳情」をご参考に。
https://www.city.osaka.lg.jp/shikai/page/0000002285.html
陳情の受付は常時行なわれている。ただし市会の日程が決まれば、市会日程に記載されている締め切り日の午後5時30分までに提出する必要がある。提出は直接市役所内の市会事務局、もしくは郵送に限られる。提出はこの秋期は、1回目が9月16日火曜日、2回目が11月20日木曜日となっている。
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