資材高・円安・人件費高騰と空き家問題

コラム
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5年スパンで読み解く影響と打開策を考える

ここ数年、建築設計の仕事をしていて、明らかに建替えでの新築からリフォームが中心となってきた感がある。
空き家問題は、長らく「人口減少」「相続未了」「管理不全」といった文脈で語られてきた。しかし今、その前提が静かに、だが決定的に変わりつつある。
資材価格の高騰、円安の常態化、人件費の上昇。
これらはすべて、建てる・直す・壊すという住宅のライフサイクル全体に影響を及ぼし、空き家問題を次の段階へ押し出している。

本稿では、これから5年間という視点で、これらの経済要因が空き家問題にどのような変化をもたらすのかを整理し、その上で「実装可能な打開策」を考えてみたい。

まず何が起きているのか――三重苦の構造

資材高騰

ウッドショック以降、木材・鋼材・断熱材・設備機器の価格は高止まりしている。一度上がった価格は、もはや「元に戻る」前提では語れない。
結果として、新築・改修ともに初期投資のハードルが恒常的に上昇している。

円安

円安は輸入建材・設備価格を直撃する。
同時に、日本の不動産が海外資本から「割安」に見えるという逆転現象も生んでいるが、地方の空き家にはその恩恵はほとんど及ばない。

人手不足による人件費の高騰

建設技能者の高齢化と人手不足により、人件費は構造的に上昇している。
これは「工事費が高い」という問題にとどまらず、そもそも請け負ってもらえないという事態を各地で生んでいる。

この三重苦は、空き家を
・活用する
・再生する
・解体する
そのすべての選択肢を難しくしている。

5年後に見えてくる空き家問題の姿

(1)「直せない空き家」の急増

今後5年で最も顕在化するのは、修繕費が資産価値を上回る空き家の増加である。
これまでは「安く直して貸す」「最低限直して売る」が成立した物件も、改修費の上昇によって成立しなくなる。

結果、
「使いたい人はいるが、数字が合わない」
という空き家が大量に残る。

(2)「壊せない空き家」の固定化

解体費も上昇している。
相続したものの、解体費を捻出できず、かといって活用もできない。
こうした空き家は時間とともに劣化し、危険度だけが増していく

(3)市場から消える地方住宅

新築価格の上昇により、若年層は「建てない」選択を強める。
一方で、既存住宅は直せない。
結果として、地方では住宅市場そのものが薄くなる
取引が成立しない=価格がつかない、という事態が常態化する。

問題の本質は「経済合理性の崩壊」

空き家問題は、感情論でも道徳論でもない。本質は極めてシンプルだ。

・直すと赤字
・壊すにも金がかかる
・放置が一番安い

この条件が揃ったとき、人は動くことができない。
そして今後5年で、この条件に当てはまる空き家は確実に増える。

したがって、打開策は
「意識を変えよう」「善意で何とか」では成立しない。
経済構造そのものをずらす必要がある。

打開策①「フルリノベ」前提を捨てる

第一の打開策は明確である。
空き家活用=フルリノベーションという発想を捨てることだ。

・雨漏りを止める
・最低限の断熱
・水回りを一系統だけ更新

こうした段階的・縮退的改修を制度として認める。
「住みながら直す」「使いながら育てる」住宅像を、行政も金融も前提にすべきである。

打開策②「用途を住まいに限定しない」

空き家は、必ずしも「住宅」として再生しなくてよい。

・月数回使う拠点
・半屋外の作業場
・倉庫+集会スペース
・地域の仮設機能

人件費と資材費が高い時代に、完璧な室内環境を求めない用途を積極的に位置づけることが重要である。

打開策③「解体できない」を前提に設計する

解体が高いなら、壊さない前提で危険度を下げるという選択がある。

・屋根だけを軽量化する
・倒壊リスクのある部分のみ撤去
・敷地を部分的に更地化

これは建築的には「中途半端」に見えるかもしれない。
しかし、放置よりは確実に社会的コストを下げる。

打開策④「所有」と「利用」を切り離す

今後5年で重要になるのは、
所有者がすべてを決めるモデルからの離脱である。

・管理だけを第三者に委ねる
・期間限定で利用権を渡す
・改修費を出した人に使用権を付与する

資材高・人件費高の時代は、一人で背負わない仕組みが不可欠である。

打開策⑤「縮退を前提とした自治の設計」

最後に、最も重要な視点を述べたい。
それは、すべての空き家を救わないという覚悟である。

5年後、確実に人口は減り、労働力も減る。
その中で、
・守るエリア
・たたむエリア
を自治として選び取る必要がある。

空き家問題は、住宅政策ではなく、地域の縮退マネジメントの問題である。

簡単ではない行政の重い腰

資材高、円安、人件費高騰。
これらは一見すると、空き家問題を悪化させる要因にしか見えない。

しかし同時に、
「これまでのやり方が通用しない」
ことを、はっきりと示してくれている。

5年後の空き家問題は、今よりも厳しく、だが設計次第で穏やかにもできる。

完璧を目指さず、全部を救おうとせず、現実に即した一手を重ねること。

それが、この5年先を考えた現実的で誠実な打開策ではないか。

これらの方向に対して、行政は早めに手を打たねばならないのだが、常に問題が発生するまでは誰も腰を動かさないことが仕組み化されている現状では、私たちにできることを淡々とやっていくしかないと思っている。

<山口 達也>

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