なぜ大阪市ではPFIが広がるのか

コラム
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―開発優先行政が生む“未来への先送り”

前々回では、水道管路更新が「40年前倒し」として突然打ち出された背景に、国の制度変更と財政条件の変化があったことを見てきた。前回は、小学校体育館への空調整備が、学校統廃合という将来の変化を前提としながらも、15年という長期契約によって進められている構造を確認した。

分野は異なるものの、両者には共通点がある。長年進まなかった基盤整備が、制度条件の変化を契機に一気に動き出し、その際に長期契約型の手法が選択されている点である。

なぜこのようなことが繰り返されるのだろうか。

一般にPFI事業は、民間の資金やノウハウを活用し、公共施設整備を効率的に進める手法として説明される。しかし大阪市の事例を見ていくと、PFIは単なる事業手法というより、行財政の運営構造そのものと深く結びついているように見える。

単年度予算を基本とする財政構造のもとでは、大きな支出は扱いが難しい。とりわけ水道管路の更新や学校施設の維持管理のように、政策的に目立たず、継続的な支出を必要とする分野では、単年度の負担を抑えることが優先されやすい。一方で、宣伝効果が高く華々しい大規模開発事業は、都市の成長や成果として可視化されやすく、政策の中心に据えられやすい性格を持つ。

その結果、本来は平時から積み重ねるべき維持更新投資が後回しとなり、国の制度的な支援や新たな事業スキームが現れたときにまとめて実施される構造が生まれる。そしてPFIは、その際に財政負担を将来へ分散させるしくみとして機能する。
言い換えれば、PFIは公共サービスを提供するしくみであると同時に、現在の財政負担を未来へ移動させる装置として働く側面を持つ。

今回は、水道管路更新と学校体育館空調整備という二つの事例を手がかりに、大阪市ではなぜPFI事業が拡大してきたのかを、行政運営と財政が実施するタイミングという観点から考えてみたい

水道事業と学校施設整備事業に共通するもの

水道管路更新事業と学校体育館空調整備事業。2つは一見すると全く異なる分野の事業である。前者は基幹インフラの老朽化対策であり、後者は教育施設の環境改善である。対象も制度も異なる。
しかし両者を並べてみると、いくつかの共通点が浮かび上がる。
  • 第一に、本来であれば継続的に進められているべき維持更新型の事業であるという点だ。水道管の更新も、学校施設の改善も、突発的に発生する事業ではなく、長期的な計画のもとで平時から着実に進められることが望ましい分野である。
  • 第二に、いずれも「ある時点」で一気に動き出したという点である。水道管路更新は、国の安全対策強化や財政措置を契機に前倒しが打ち出された。学校体育館空調整備も、国の補助制度創設によって整備環境が整い、一括事業として進められることになった。
  • 第三に、その際に選択された事業手法が、長期契約や将来支払いを伴う枠組みであったという点である。水道ではPFI的なスキームが検討・導入され、学校空調でも15年に及ぶ契約が結ばれている。いずれも、単年度で大きな支出を計上するのではなく、支払いを複数年度に分散させる構造を持つ。
維持更新型の基盤事業が入札不調となり、平時に十分進まないまま、国の制度的・財政的な「条件」が整ったときに一気に実施される。その際には長期契約型のスキームが選ばれる。このパターンは、大阪市の個別事業の問題というより、行政運営の基本的な考え方そのものを映している可能性がある。

水道事業も学校施設も都市を支える基礎インフラであるが、開発事業のように短期的な成果として示されにくい。その結果、維持更新投資は後回しとなり、課題が蓄積した段階で長期契約型の手法によって一括処理される構図が生まれる。

ここに、PFI拡大の一つの方針が見えてくる。
それは「民間活用」というだけでなく、行政が抱える財政運営の時間的タイミングと優先順位の問題である。

単年度予算からは見えない“将来コスト”

地方自治体の財政は単年度予算を基本とする。この仕組みは財政規律を保つ一方、成果をアピールしやすい開発事業と、目立たない維持更新投資との間で予算配分の偏りを生みやすい。水道管更新や学校施設維持は「何も起きないこと」が成果であるため、政治的に優先順位が下がりやすい。

この違いは、予算配分の判断に少なからず影響を与える。

単年度で大きな支出を伴う維持更新投資は、財政負担として目立ちやすい。一方で、将来にわたる支払いへ分散できる事業手法を用いれば、当年度の財政負担を目立ちにくくすることができる。PFI方式が持つ「財政負担の平準化」という特徴は、まさにこの点にある。

しかし見方を変えれば、それは支出が消えることではない。支払いの時期が将来へ移動するだけである。

現在の予算制約を回避するために長期契約を選択するほど、将来年度の財政には固定的な支払いが積み重なっていく。こうした支出は、毎年の予算編成の中では個別に議論されにくく、「既に決まっている支払い」として扱われることになる。

その結果、将来の財政運営の自由度は徐々に小さくなっていく。
ここで重要なのは、これは特定の事業手法の問題ではないという点である。PFIは本来、効率的な公共サービス提供を目的とした制度であり、適切に設計されれば有効に機能し得る。

問題は、メンテナンス投資が後回しにされる財政運営の中でPFIが用いられるとき、それが結果として「現在の負担を未来へ移動させる装置」として働きやすくなることにある。

水道管路更新と学校体育館空調整備は、その典型的な例だと言える。どちらも長年の課題でありながら、入札不調などで事業が進まなかった。しかし制度的条件(どちらも国の予算化)が整った段階で長期契約型の事業として実施されることになった。

つまり問われているのは、PFIという制度そのものではなく、どの時点で支出を引き受けるのかという行政の決済のタイミングの選択にある。

なぜPFIは拡大していくのか ― 大阪市が積極的に選択する理由

ここまで見てきた水道管路更新と学校体育館空調整備の事例は、いずれもPFI方式、あるいはそれに近い長期契約型の事業手法が選択されていた。では、なぜこうした手法が繰り返し採用されるのだろうか。

その理由は、大阪市の行政運営の基本構造そのものの中にあると考えられる。

第一に、単年度予算との相性である。前章で見たように、PFI方式は初期投資を長期のサービス購入料として分割することができる。これにより、当年度の支出額を抑えながら事業を開始できるため、財政制約の中では選択しやすい手法となる。

第二に、事業実施体制の問題がある。地方自治体では技術職員や事業管理人材の不足が長年指摘されている。行政改革の流れの中で、人件費抑制や組織のスリム化が進められ、技術部門の人員配置が縮小されてきた結果だが、それと並行するように外部委託への依存度は高められてきた。
こうした体制づくりがもたらしたのは、行政が個別事業を自ら詳細に管理せず、設計・施工・維持管理を一体化した契約によって民間事業者に包括的に委ねるという方針の採用だ。PFI方式は、このような行政組織の変化に整合する事業手法として、国が推奨するようになった。

第三に、国の制度設計との関係である。近年、多くの国庫補助制度や政策パッケージでは、民間活用や包括的事業スキームが推奨される傾向が強まっている。自治体にとっては、制度条件に適合する形で事業を設計する方が、財源確保しやすい状況を生んでいる。

そして第四に、政策の可視性という要素がある。
都市開発や施設整備は、完成という形で成果を示しやすい。一方、維持管理や更新投資は「何も起きないこと」が成果であり、評価されにくい。PFI方式によって事業を一括化すれば、「整備を実施した」という明確な政策成果として示すことが可能になる。

これらの要因が重なると、PFIは特別な選択ではなく、むしろ行政にとって合理的に見える選択肢となる。

PFIが選ばれる背景には、財政制度、人員体制、国の政策誘導、そして政策評価のあり方といった複数の要因が重なっている。
しかし同時に、この構造には別の側面も存在する。

PFIによって事業が進められるほど、将来年度に固定的な支払いが増え、財政の自由度は徐々に小さくなる。結果として、新たな政策選択の余地は狭まり、既に決められた支出を前提に行政運営を行う状態が生まれていく。

つまりPFIの拡大は、単なる事業手法の普及ではなく、行政の財政運営そのものが長期契約を前提とする構造へ変化していく過程とも見ることができる。

都市開発優先という堅固な政策方針

水道管路更新と学校体育館空調整備という二つの事例を通して見えてくるのは、単なる事業手法の問題ではない。それは、大阪市における政策方針がどこに置かれているのかという問いである。

都市開発事業は、完成という明確な節目を持ち、成果が視覚化されやすい。新たな施設、再開発地区、経済波及効果の数字――これらは政策の「成果」として説明しやすく、政治的にも評価されやすい性格を持つ。

一方で、水道管の更新や学校施設の維持管理は、何も起きないことが成果である。事故が発生しないこと、施設が安全に使い続けられることは、日常の中に溶け込みやすく、政策成果として前面に出にくい。

この違いが、予算配分や事業優先順位の決定に影響を及ぼしているのではないか。

もし限られた財源の中で選択を迫られたとき、短期的な可視性を持つ事業と、長期的な安定性を支える事業のどちらが優先されやすいか。これは事業担当者の意図というより、政治と財政の方針選択に根差した問題である。

その結果、維持更新投資は後回しになりやすい。そしてその際に、PFIのような長期契約型の手法が用いられることで、現在の財政負担は将来へと移動する。

将来世代と費用を分かち合う考え方自体は市民からの理解は得られやすい。
しかし、維持更新投資が十分に積み重ねられないまま、財政負担の移転だけが進んでいくとすれば、問題は別の形で現れる。将来年度の予算は、すでに結ばれた契約によって拘束され、新たな政策選択の余地は徐々に狭まっていく。
そしてそのとき、優先順位の再検討は容易ではなくなる。

水道事業と学校施設整備事業の事例は、都市開発を含む政策全体の中で、基盤整備や維持更新がどの位置に置かれているのかを問い直す契機となる。目に見える成長と、目に見えにくい持続可能性。その間で行政がどちらを重視しているのかは、財政構造の中に静かに現れている。

PFIの拡大は、単なる民間活用の広がりではなく、こうした政策方針の選択の結果として理解する必要がある。

問われる大阪市の開発優先行政

ここまで見てきたように、水道管路更新と学校体育館空調整備はいずれも、PFIあるいは長期契約型の手法によって進められている。だが問題は、PFIという制度そのものの是非ではない。

PFIは、適切に設計され、長期的な財政見通しのもとで運用されるならば、有効な選択肢となり得る。民間の技術や運営能力を活用すること自体が直ちに否定されるべきものではない。

しかし、水道管の更新や学校施設の維持管理といった、都市の基盤を支える事業が平時に十分進まず、国の制度的・財政的な条件が整った段階で一括的に実施され、その際に現在の負担を将来へ移動させる長期契約が選ばれるという構図が繰り返されるのであれば、そこには行政運営の優先順位の問題が横たわっている。

水道管路更新が「なぜ今」だったのか。
学校体育館空調整備が「なぜこの形で」進められるのか。

水道管更新と学校空調整備は偶然ではなく、大阪市の行政方針と財政運営の中で位置づけられる事象である。問われているのは、その優先順位そのものだ。
将来に残るのは、完成した施設だけではない。
結ばれた契約もまた、都市のかたちを規定していく。

そのことを踏まえたうえで、いま進められている事業が、将来世代にどのような影響を及ぼすのかを考える必要があるのではないだろうか。

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