便利さのウラで環境汚染や健康被害を広げてきた「PFAS」
PFASあるいは有機フッ素化合物による水質汚染や土壌汚染、それに連なる健康被害に関するニュースや情報を目にした人はおられると思う。環境省は、人体に対する健康被害について積極的に血液検査を推奨したりはしていない。現在は、自治体による任意の検査として水道水や血液検査などが行われているに過ぎない。政府が健康被害についてあまり積極的な対応をしていないのは、汚染源がPFASなどの有機フッ素化合物の製造会社であったり、それを使用した製品メーカーであったり、米軍基地であることが大きく影響している。
「PFAS」とは、有機フッ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物を総称した化学物質を指し、1万種類以上もあると割れている。日本の環境省では、国際的に問題が指摘されている「PFAS」のうち、PFOA(ペルフルオロオクタン酸)、PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)、(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)PFHxSの3種だけを要調査対象としており、それ以外についてはある意味放置されたままとなっている。
PFASは、「熱に強い」「水や油を弾く」「燃えにくい」といった特性を持っており、消費財や半導体などの製造にとって安くて便利な素材として1950年代より大量生産、大量消費されてきた。
PFOAは主にはっ水剤、界面活性剤として使用されており、レインコートやキャンプ用品、衣類などの撥水加工や、フライパンなどのフッ素樹脂コーティングの調理器、またハンバーガーなどの食品包装材などに使われてきた。またPFOS
は、半導体製造や金属メッキ、泡消火剤などに使用されてきた。PFASは自然界では分解されにくく、生物内に取り込まれると体内に蓄積しやすいことがわかっており、「永遠の化学物質」といわれるゆえんである。そのため「PFAS」は2000年代初頭まで使用されてきたが、残留性や健康被害が懸念されるようになり、2009年の「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs 条約)」で国際的に製造・輸入が禁止され、2019年にはPFOS・PFOAは制限・廃絶の対象となった。日本国内では対応が遅く、2010年(平成22)4月にPFOS、2021年(令和3)にPFOAが第一種特定化学物質に指定され、製造・輸入・使用などが制限されるようになった。
各地で次々とPFAS汚染が発覚するも自治体の対応は鈍い
使用制限がされるようになった「PFAS」だが、これまでに製造された地域や使用して製品を製造してきたメーカーの地域では、「PFAS」は長年排出されてきた。そのため地域の土壌が汚染され、雨や河川を通じて地下水に流れ込み、土壌汚染、水道水汚染をもたらす元となっている。
汚染された水や食物科を摂取することで体内の血中濃度が上がり、さまざまな健康被害をもたらすことがわかっている。潰瘍性大腸炎、腎臓がん、精巣がん、高コレステロール症、妊娠性高血圧、甲状腺疾患などだ。日常生活レベルの汚染でも健康への影響が指摘されており、胎児や子どもの発達障害、免疫・ホルモン異常などが生じるとの研究結果*も報告されている。
※妊娠中のPFAS濃度と4歳時点の発達との関連:子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)
水質汚染に対する基準では、厚生労働省と環境省は、水道水・河川・地下水中のPFOSおよびPFOAの値について、両方合わせて1リットルあたり50ナノグラム(1ナノグラム=10億分の1グラム)という暫定目標値を設定している。WHOの暫定値に比べれば低いと言えるが、この問題の取組みの先例であるアメリカでは、PFOS、PFOAそれぞれ1リットルあたり4ナノグラムとしている。

水道におけるPFASの処理技術等に関する研究会より
一見厳しい基準のように思われるのだが、各地の汚染の実態を見れば、そんな悠長なことは言ってられない。
環境省は、令和4年度に公共用水域及び地下水のPFOS及びPFOAの水質調査を行った(8都道府県1258地点)が、その結果、基準値よりも高い汚染度の地域がいくつも発見された。
NHKの報道*では、全国111地点で国の基準値を超え、そのうち98%は汚染源が不明だという。
この調査以外も含め、公的な調査の結果高い汚染度が発見されているして下記が挙げられている。(同報道)
●沖縄県による2025年度3月発表の調査では、嘉手納町で190ナノグラム/L、浦添市で170ナノグラム/L
●岡山・吉備中央町「円城浄水場」1200ナノグラム/L(国の暫定目標値の24倍)
●三重・桑名市「多度中部送水場」170ナノグラム/L(国の暫定目標値の3.4倍)
●大阪・摂津市の地下水2万1000ナノグラム/L(国の暫定目標値の420倍)
※NHK web特集
河川・地下水などPFAS全国マップ2種類で詳しく あなたの町は?
大阪市・摂津市の濃度が異常なのは、市内にPFAS製造メーカーであるダイキンのダイキン工業淀川製作所があるためで、工場に隣接する民家の畑で育てた野菜から、高濃度のPFOAが検出されたという。140グラムのナスと、100グラムのサトイモを食べると、合わせて50.5ナノグラムのPFOAを摂取することが判明したというのだ。*
※Tans 公害「PFOA」
NHKが独自に作成した“PFAS汚染”全国マップで大阪府を拡大すると、大阪市内の地下水、河川がかなり汚染されていることがわかる。

NHK“PFAS汚染”全国マップ(河川・地下水等 令和4年度)より

NHK“PFAS汚染”全国マップ(河川・地下水等 令和4年度)より
大阪市では、「令和2年度に環境省が実施した「有機フッ素化合物全国存在状況把握調査(環境省ホームページ)」において、大阪市内の地下水から、暫定的な目標値を超過した有機フッ素化合物(PFOS及びPFOA)が検出されたことを受け、令和3年度から各区1か所以上における地下水の実態を把握してきました。」としているが、水道水でも基準値ぎりぎりであったり、地下水ではいずれも国の基準を大きく上回る地域が続々と並んでいる。地下水は農業用水として使われている。本来であればその対策を行わなければならないはずだが、水道水さえ国の基準以下であればいいという判断なのか、一向にその気配はない。
大阪市
有機フッ素化合物(PFOS、PFOAなど)について
大阪市におけるPFOS及びPFOAの地下水調査結果(令和7年6月更新)

大阪市におけるPFOS及びPFOAの河川・湖沼調査結果
