夢洲は誰の夢か?──万博跡地“売却”に潜む自治の不在

コラム
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万博の夢と夢洲の現実

夢洲という地名には、かつての「夢」を担わせたいという意思が込められていたはずだ。大阪・関西万博はその象徴だった。だが、その夢は成就される前に、跡地の「売却」前提で、大阪市戦略会議において議論されている。

夢洲第2期区域開発事業者募集の基本事項についてhttps://www.city.osaka.lg.jp/seisakukikakushitsu/cmsfiles/contents/0000445/445851/20250606_tyounaikaigi.pdf


夢洲にはすでに莫大な公的資金が投入されている。大阪メトロが新たな路線を引き、アクセスインフラが整備された。それは当然、万博とIR(統合型リゾート)構想を見据えてのものだったはずだ。

しかし、現状として、カジノ事業者には「借地」で土地を貸す方針である一方、万博跡地は「売却」を検討するという。土地の使い方、制度の扱い、そして市民への説明、いずれも一貫性を欠いている。

なぜ“売却”なのか──説明なき方針転換

最大の疑問はここにある。なぜ万博が終わった直後に、その跡地を「売却」しようというのか。
これは「土地を公共から民間に手放す」ことであり、まちづくりの方向性を根底から変える判断である。にもかかわらず、行政からは市民に対して丁寧な説明がない。

これが小学校の校庭だったらどうか?
運動会が終わった翌日に「この土地、ショッピングセンターに売ります」と言われれば、親も教師も大騒ぎするだろう。
土地は使い方によっては次世代の資産になり得る。短期的な財政バランスや政治的都合で切り売りされるものではない。

カジノは借地、万博跡地は売却?制度の歪み

さらに不思議なのは、同じ夢洲内でも、カジノ用地は「借地契約」である点だ。IR事業者に対しては格安で貸与し、リスクは行政が背負う格好だ。これは「民間事業者に優しく、市民には厳しく」という制度設計に他ならない。

一方で、万博跡地は売却され、買い手がつけば完全に民間主導の開発となる。しかも、その買い手は、カジノ事業者と関係の深い企業になる可能性も高い。つまり、“借地”と“売却”という制度の違いを使い分けることで、実質的には夢洲全体が特定の資本に支配されていく構造を感じるのは私だけであろうか。

制度が道具として使われるとき、もっとも犠牲になるのは「公共性」である。

インフラ整備のツケは誰が払うのか

大阪メトロの延伸、地盤改良……夢洲には兆単位のインフラ投資がされてきた。これらのコストは当然、市民の税金によって支えられている。ところが、土地の売却益は一部の財源補填に使われるだけで、それが再び市民に還元される構造にはなっていない。

「前払いでインフラを整備させられて、後払いで土地を明け渡す」という状態である。

ある市民が皮肉を言った。「夢洲って夢を見せてくれる土地じゃなくて、夢を見させられる土地だったんですね」。その言葉に象徴されるように、まちづくりの主体が市民から遠ざかっている現状が、ここにはある。

未来のまちづくりに必要なもの

では、どうすればいいのか。ひとつ言えるのは、土地の使い道を市民が主体的に考えるプロセスを回復させることである。売却か否かを議論する前に、その土地で何を実現したいかを問わなければならない。

たとえば、地域のエネルギー自給拠点整備。若者や起業家の活動の場、市民農園のような都市的自然の再生拠点──こうした多様な選択肢が、民間売却では見えなくなる。なぜなら、民間開発には収益性の高い用途しか選ばれないからだ。

夢洲は「売るか貸すか」の話ではない。「どう活かすか」「誰が決めるか」が問われているのである。

さらにそもそも論でいえば、本来はゴミを廃棄する先だった夢洲が、商業地域に用途変更されてしまったことだ。2本しかアクセスの無く防災上も脆弱で、地盤沈下の可能性も高い、夢洲に大量の税金を投入した維新政治の決着点として、この万博跡地問題を含む夢洲問題を「自治」の視点から問い直さねばならない。


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