社会的連帯経済基本法レポート・参考資料1

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2026年8月27日現在

このレポートを始めるにあたって

韓国の「社会連帯経済基本法」は、報道を読んだだけでは、その制度の全体像や、日本社会に照らしたときにどのような意味を持つのかが理解しにくい法律だった。そこで、成立した基本法と関連政策をより深く理解し、その過程を読者と共有するため、このレポートを始めることにした。

本レポートでは、韓国政府等が公表した資料をもとに、生成AIを利用して韓国語資料の翻訳、制度の整理、日本との比較、原稿の下書きを行い、筆者が問題の設定、構成、採用する記述を判断し、編集している。

このレポートの作成方法と資料上の限界

筆者は韓国語の法律原文を独力で読解できる者でも、韓国の法制度を専門とする研究者でもない。本レポートでは、韓国政府、国会、法令情報などが公表した一次資料をもとに、生成AIを利用して韓国語資料の翻訳、制度の整理、日本の行政制度との比較、原稿の下書きを行っている。二つの参考資料も、主としてこの方法によって作成したものである。

そのうえで、何を問題として捉えるか、日本の制度とどのように比較するか、どの記述を採用するかについては、筆者が判断し、編集している。

法律に関する記述については、韓国語原文に加え、日本協同組合連携機構が公開した日本語仮訳などとも照合する。ただし、翻訳や制度の理解に誤りが含まれる可能性を完全には排除できない。このレポートは法律の専門的な逐条解説ではなく、現時点で確認できる資料から制度の意味を考えようとする調査と検討の記録である。

基本法は国会を通過したばかりであり、具体的な施行令、基本計画、予算、評価方法などはこれから明らかになる。新たな資料が公表された場合や、記述の誤りが確認された場合は、随時修正する。

韓国の制度を礼賛することが目的ではない。市場だけでも行政だけでも解決できなくなった問題に対して、社会はどのような第三の制度をつくることができるのか。そして、自治体の成果を「行政に残った金」ではなく「市民の側に残った豊かさ」によって測ることができるのか。その問いを、読者とともに考えていきたい。

このシリーズでの表記

  • 사회적기업:社会的企業
  • 협동조합:協同組合
  • 사회적협동조합:社会的協同組合
  • 마을기업:マウル企業(地域住民企業)
  • 자활기업:自活企業(低所得者の自立就労企業)
  • 소셜벤처:ソーシャルベンチャー
「住民企業」という直訳だけでは地方公営企業と誤解されやすく、「自活企業」という直訳だけでは制度の対象と目的が伝わりにくい。そのため、初出では上記の補足を付け、二回目以降は韓国の制度名をそのまま用いる。

韓国の社会的連帯経済を担う組織

社会的企業・協同組合・マウル企業・自活企業・ソーシャルベンチャーは何が違うのか

韓国の社会的連帯経済を調べると、「社会的企業」「協同組合」「マウル企業」「自活企業」「ソーシャルベンチャー」といった名称が並んで出てくる。これらは、同じ種類の会社を事業分野ごとに分けたものではない。

協同組合は、株式会社などと同じく、組織の持ち方を定める「法人形態」である。これに対して社会的企業は、一定の要件を満たした法人や団体に与えられる「認証」であり、マウル企業、自活企業、ソーシャルベンチャーも、それぞれ異なる政策目的から設けられた制度上の区分である。

したがって、一つの組織が二つ以上の区分に重なることもある。たとえば、社会的協同組合として設立された法人が、要件を満たして社会的企業の認証を受けることも、自活企業として事業を行うこともあり得る。

なお、韓国の法律名は「社会連帯経済基本法」(사회연대경제기본법)である。このレポートでは、日本で一般に使われる国際用語に合わせて「社会的連帯経済」と表記する。

まず、五つの違いを一表で見る

基本法が「社会連帯経済企業」として位置づける対象は、この五つだけではない。農協、水協、山林組合、信用協同組合、セマウル金庫、消費者生活協同組合など、個別法に基づく多様な協同組合も含まれる。このページでは、韓国政府の総合計画や基本法の説明で頻繁に登場し、日本の読者には違いが分かりにくい五つの制度を中心に整理する。
名称何を表すのか中心となる性格主な所管
社会的企業法律に基づく認証社会的目的を主目的とし、事業収入を得ながら、雇用や社会サービス、地域貢献を行う組織雇用労働部
協同組合法律に基づく法人形態出資額ではなく一人一票で、組合員の共通の必要を共同事業によって満たす組織企画予算処が制度を総括。社会的協同組合は事業分野ごとの省庁が認可・監督
マウル企業法律に基づく指定制度地域住民が出資し、地域資源を使って地域課題を解決し、所得や仕事を地域に生み出す企業行政安全部・地方政府
自活企業生活保障・就労自立政策に基づく認定企業生活困窮者が共同で事業を立ち上げ、雇用される側から事業の担い手へ移るための企業保健福祉部・地方政府
ソーシャルベンチャー法律に根拠を置く政策上の企業類型社会的価値と経済的価値を、革新的な技術や事業モデルで同時に実現しようとする企業中小ベンチャー企業部

1 社会的企業――社会的目的を主目的にして事業を行う

韓国の社会的企業は、単に「社会に良いことをしている会社」を指す呼び名ではない。「社会的企業育成法」に基づき、雇用労働部長官の認証を受けた組織をいう。

法律は、社会的企業を、困難を抱える人に社会サービスや仕事を提供すること、または地域社会に貢献することによって社会的目的を追求しながら、財やサービスの生産・販売などの営業活動を行う企業と定めている。

社会的企業は、株式会社とは別の法人形態ではない。会社、民法上の法人、組合、非営利民間団体などが、認証要件を満たすことで社会的企業になり得る。したがって、社会的企業と民間企業を対立するものとして捉えるのは正確ではない。社会的企業も民間の事業体であり、商品やサービスを販売し、収入を得て、雇用を生み出す。

一般の営利企業との違いは、利益を上げること自体ではなく、何を組織の主目的とし、どのように意思決定し、利益を何に使うかにある。認証には、社会的目的を主目的とすること、有給労働者を雇って営業活動を行うこと、サービス利用者や労働者など利害関係者が参加する意思決定のしくみを持つことなどが求められる。商法上の会社・合資組合の場合、配分可能な利益の三分の二以上を社会的目的のために使うことも要件となる。

日本で近いものを挙げれば、社会的課題を事業で解決する企業、就労支援事業を行う法人、事業型NPOなどがある。ただし、日本には韓国と同じ一元的な「社会的企業」認証制度はないため、名称だけで一対一に対応させることはできない。

2 協同組合――利用者・労働者・住民が共同で所有し、決める

協同組合は、共同の必要を持つ人びとが出資し、利用し、民主的に運営する事業体である。韓国の「協同組合基本法」では、原則として五人以上で設立でき、出資額の大小にかかわらず一人一票の議決権を持つ。

ここが株式会社との最も分かりやすい違いである。株式会社では、原則として多くの株式を持つ者ほど多くの議決権を持つ。協同組合では、事業の利用者や働く人などの組合員が、資本の額ではなく構成員として対等に意思決定に参加する。

基本法上の協同組合には、主に二つの法人格がある。

  • 一般協同組合は営利法人で、剰余金の配当ができる。ただし、協同組合は投資利益の最大化を目的とする会社ではなく、組合員による事業利用が中心であり、利用実績に応じた配当を重視する。
  • 社会的協同組合は非営利法人で、地域再生、住民の権利・福祉の増進、困難を抱える人への社会サービスや仕事の提供、国や地方政府からの受託事業など、公益事業を主事業の四〇%以上行う。剰余金の配当はできない。
日本の協同組合にも、生協、農協、漁協、信用金庫・信用組合、労働者協同組合などがある。ただし、根拠法、設立要件、事業範囲は韓国と異なる。韓国にも、基本法とは別に、農協、水協、森林組合、信用協同組合、セマウル金庫、中小企業協同組合、消費者生活協同組合など、個別法に基づく協同組合がある。

3 マウル企業――住民が地域資源を生かし、利益を地域に返す

「マウル」(마을)は、村落だけでなく、住民どうしの関係や共同体意識がある身近な生活圏を表す言葉である。本レポートでは「住民企業」とだけ訳さず、初出では「マウル企業(地域住民企業)」と表記する。

マウル企業は、自治体が出資・経営する地方公営企業ではない。地域住民が出資して設立・運営し、地域の自然、文化、歴史、人材、空き家などの資源を使った事業によって、地域共通の課題を解決し、地域に所得と仕事をつくる企業である。

設立・指定には、地域住民五人以上が出資した法人であることに加え、共同体性、公共性、地域性、企業性などが求められる。地方政府を通じた申請・審査を経て、行政安全部長官が指定する。

重要なのは、企業自身の利益だけでなく、地域社会全体が得る便益を目的に含めている点である。地域産品の加工・販売、食堂、観光、空き家活用、生活支援、再生可能エネルギーなど、事業内容は地域によって異なる。

日本で近い例には、住民出資の地域会社、地域運営組織が設立した法人、コミュニティビジネス、まちづくり会社などがある。ただし、日本の「地域商社」や第三セクターがすべてマウル企業に当たるわけではない。住民による出資と参加、地域課題の解決、地域全体への利益還元が制度の中心にある。

マウル企業は2011年から行政事業として育成されてきたが、2026年8月15日に「マウル企業育成及び支援に関する法律」が施行され、独立した法律に基づく制度となった。

4 自活企業――生活困窮者が共同事業を通じて自立する

韓国語の「自活」(자활)は、日本語の「自立支援」に近い。そこで本レポートでは、初出を「自活企業(低所得者の自立就労企業)」とする。

自活企業は、国民基礎生活保障制度の受給者やその周辺の低所得層が協力して設立・運営する企業である。法律上は、受給者または次上位階層(チャサンウィ層)に属する人を二人以上含むことなどの要件を満たし、保障機関の認定を受ける。多くは、自治体や地域自活センターが実施する自活勤労事業団で仕事と経営の経験を積んだ人たちが、そこから独立して起業する経路の最終段階に位置づけられる。

これは、低所得者を一般企業に就職させるだけの制度ではない。当事者が清掃、介護、住宅修繕、配送、資源循環、飲食などの共同事業を立ち上げ、継続的な仕事と所得を自らつくるしくみである。

自活企業も固有の法人格ではなく、株式会社、有限会社、協同組合、社会的協同組合などの形を取ることができる。そのため、ある組織が自活企業であると同時に、社会的協同組合や社会的企業である場合もある。

日本では、生活困窮者自立支援制度、就労継続支援事業、労働者協同組合、事業型NPOなどに部分的に似た機能がある。しかし、生活保障制度の中の就労事業から共同起業へつなぐ韓国の制度を、そのまま一つの日本制度に置き換えることはできない。

ソーシャルベンチャー――社会課題を革新的な事業で解く

ソーシャルベンチャーは、社会的価値と経済的価値を一体として追求し、革新的な技術や事業モデルによって社会課題を解決しようとする企業である。韓国では2021年に「ベンチャー企業育成に関する特別法」に法的根拠が設けられた。中小ベンチャー企業部が社会性と革新的成長性などの判別基準を定め、制度を所管し、創業、技術開発、保証、投資などを支援している。

つまり、協同組合は「誰が所有し、どう決めるか」、社会的企業は「社会的目的を主目的として事業を行っているか」、マウル企業は「住民が地域の利益のために事業を行っているか」、自活企業は「生活困窮者の自立と共同起業につながっているか」、ソーシャルベンチャーは「社会課題を革新的に解決し、成長しようとしているか」を見る制度である。

社会的企業との違いは、社会的企業が社会的目的、雇用、社会サービス、利害関係者の参加、利益の再投資などを認証要件とするのに対し、ソーシャルベンチャーは社会性とともに革新性や成長可能性を重視する点にある。典型的には新技術や新しいしくみによって課題解決と事業拡大を両立しようとするが、ソーシャルベンチャーという独立した法人形態があるわけではない。

日本でいう社会課題解決型スタートアップ、インパクトスタートアップに近いが、日本でも定義や支援制度は一つに統一されていない。

五つの制度は重なり合う

五つの名称を、相互に排他的な箱として理解してはいけない。

たとえば、住民五人が社会的協同組合を設立し、地域の高齢者に配食と移動支援を提供する場合、その組織は法人形態としては「社会的協同組合」である。地域住民の出資と地域課題の解決という要件を満たせば「マウル企業」の指定対象になり得る。さらに、社会的企業の認証要件を満たせば「社会的企業」にもなり得る。

韓国の社会的連帯経済基本法が必要とされた理由の一つは、このように成立経路も所管省庁も異なる組織を、一つの政策領域としてつなぐしくみがなかったことにある。

主な根拠資料

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