「南海トラフ地震臨時情報」が発表されたら・・・4

レポート防災・減災
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最大クラス地震の想定が描く直後の避難者像

前回は、「地震発生による被害想定から家庭での備えを考える」として、時間差で発生する地震と被害エリアを確認した。またそれに伴う、近畿地方での被害想定や、避難のあり方や避難者の環境がはどのような状況になるのかを、「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」の報告書を読み解きながら考えてみた。
今回はそれに続き、飲料や食料などの支援の想定を読みながら、避難者の環境について考えてみる。

出典:南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ 被害想定について(令和7年3月31日公表)

最大クラス地震における被害想定

「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」は、「南海トラフ巨大地震 最大クラス地震における被害想定について」という報告書を別途作成している。ここで想定されている地震は、「千年に一度あるいはそれよりもっと低い頻度で発生する地震」について検討されたもの。

最大クラスの地震は、発生頻度は極めて低いものの、仮に発生すれば、震度6弱以上または津波高3m以上となる市町村は、31都府県の764市町村に及び、その面積は全国の約3割、人口は全国の約5割を占め、超広域にわたること、また経済的な被害も甚大なものとなると推計される。今回の被害想定は、被害の様相や概ねの規模を認識・共有し、効果的な対策を検討するための資料として推計したものであり、地震の規模に関係なく、耐震化等の防災・減災対策を講じれば、被害量は確実に減じることができる。

と述べられているように、「巨大地震・津波が発生した際に起こり得る事象を冷静に受け止め」、それに対処できるように備えることが重要だとしている。

では、最大クラスの地震が発生した場合の想定される震度とその地域、津波被害の内容はどのようなものか。
報告書説明資料に「想定される震度分布・津波高等(R7)」というページがある。震度分布と津波の高さは下図の通りで、次のように説明している。
【強震波形4ケースと経験的手法の震度の最大値の分布】
神奈川県から鹿児島県までの主に太平洋側の広い範囲で震度6弱以上が発生
震度6弱以上の市町村数
601市町村→600市町村
静岡県から宮崎県までの主に沿岸域の一部で震度7が発生
震度7の市町村数
143市町村→149市町村
全割れ全11ケースの最大包絡の津波高(満潮位からの津波の高さ)
福島県から沖縄県の太平洋側の広い範囲で高さ3m
以上の津波が到達
高知県幡多郡黒潮町、
土佐清水市で
最大約34mの津波
静岡県静岡市、焼津市、和歌山県東牟婁郡太地町、東牟婁郡串本町で1m以上の津波が最短2分で到達
福島県から沖縄県の広い範囲で津波による浸水が発生
(深さ30cm以上の浸水地域
3割増加)
  • 新たな知見に基づいて地盤データや地形データの更新等を行い、想定される震度分布や津波高等を計算
  • 震度6弱以上または津波高3m以上となる市町村は、31都府県の764市町村に及び、その面積は全国の約3割、人口は全国の約5割を占め、影響は超広域にわたると想定
  • 地形データの高精度化等により、前回の想定と比較して、より広範囲で浸水が発生する想定となることが判明
神奈川県から鹿児島県までの主に太平洋側の広い範囲で震度6弱以上が発生するとし、静岡県から宮崎県までの主に沿岸域の一部で震度7が発生する想定だ。
また津波は、福島県から沖縄県の太平洋側の広い範囲で高さ3m以上の津波が到達。高知県幡多郡黒潮町、土佐清水市では最大約34mの津波が押し寄せるとなっている。想像を絶する高さだ。

時間差を置いて発生する地震の被害想定

前回も時間差で発生する地震被害についてくわしく確認したが、改めて東と西の半割れの発生による被害想定を再度見ておこう。

報告書では、「後発地震が発生した場合、地震の揺れや津波高は、最大クラスの地震の揺れや津波高を大きく超えることはないが、震度6弱以上の揺れや浸水深1m以上の浸水に続けて2回暴露される地域も存在」するとしている。
ここでは、地域特性に応じた被害想定も行われている。以下、それぞれを見ていこう。
被害想定は、前回でも紹介した通り、東側、西側それぞれ2つの半割れ地震が独立して発生した場合で、それぞれの地震による被害は考慮されていない。

東側半割れ
地震動陸側ケース、冬・深夜、風速8m/s
地震動陸側ケース、冬・夕、風速8m/s

西側半割れ
地震動陸側ケース、冬・深夜、風速8m/s
地震動陸側ケース、冬・夕、風速8m/s
時間差をおいて発生する地震の被害想定
後発地震が発生した場合、地震の揺れや津波高は、最大クラスの地震の揺れや津波高を大きく超えることはないが、震度6弱以上の揺れや浸水深1m以上の浸水に続けて2回暴露される地域も存在

地域特性に応じた被害想定

大都市の中心市街地
  • 暴露人口が多く、避難生活・災害医療に係るリソースが不足
  • 多数の企業が被災。日本経済全体が停滞
  • 高層ビルでの長周期地震動・エレベーター被害等が発生
沿岸部の工業地帯
  • 工場や港湾が被災。サプライチェーンの寸断や地域経済の停滞が発生
  • ライフライン供給に関わる施設が被災。ライフラインが長期停止
中山間地域、半島・離島
  • ・人口減少が顕著なことにより、被害拡大や被災者支援困難な状況等が発生
  • ・インフラ・ライフラインや生活に必要な施設が限定的であり、地域・集落の孤立等が発生。生活への影響が長期化
被災地内・外の主要産業への影響
  • 広範囲の浸水によって多数の人的被害や避難者等が発生
  • 長期湛水によって交通・ライフラインが停止。居住継続や医療継続、事業の再開・継続が困難となる状況が発生
  • 避難距離が長距離に及び、逃げ切れずに多数の人が死傷
海抜ゼロメートル地帯
  • サプライチェーンを通じて被災地外の企業にも影響が及び、関連産業全体の生産が低下。
  • 貿易赤字の拡大や我が国全体の産業が空洞化

生活者や避難者の被害

報告書には、生活者や避難者の被害もくわしく想定されている。
というように、日頃から何となく不安に思っていることが、そのまま想定されている。実際大阪市域全域に被害が発生することを考えれば、地震直後だけ手無く、数日間は混乱が続くことを想定する必要があるのだろう。
地震発生直後
多数の避難者の発生
  • 地震・津波等による建物被害、ライフライン被害及び余震への不安等により、多くの人が避難所へ避難する(約340~610万人)。また、比較的近くの親族・知人宅等へも避難する(約210~390万人)。
  • 津波警報等の発表、崖地の崩落や土砂崩れによる被害の発生を防ぐために、避難指示が発令され、広いエリアで多くの避難者が発生する。
  • マンション等の建物でライフライン被害、エレベーターの長期間停止等が発生し、局所的に多数の避難者が発生することで、避難所のリソースが不足する。
  • 特に、軟弱地盤上に位置する建物では、揺れが増幅され建物の傾き等が生じる場合があり、その場合には避難者が増加する。
指定避難所以外の公共施設等への避難
  • 学校等の指定避難所等だけでなく、市区町村庁舎、文化ホール、公園等公的施設、空き地などに避難する人が発生する。
  • 防災関係機関の施設にも避難者が押しかけ、災害応急対策に支障が生じる。
  • 指定避難所以外にできたテント村等が当初認知されず、食料や救援物資等が配給されない事態が発生する。
帰宅困難者等の避難による混乱
  • 帰宅困難者・徒歩帰宅者、外国人を含む観光客が避難所等に避難し、混乱する。
避難所の避難スペースの不足
  • 被害の大きな地域では満杯となる避難所が発生する。学校では当初予定していた体育館や一部教室だけではなく、廊下や階段の踊り場等も避難者で一杯となる。
  • 耐震化が未了の避難所自体が被災するおそれがあり、避難所の収容能力が見込みより減少する。また、避難スペースが天井等の非構造部材や設備の損壊等で使用不能となる。
避難所運営要員の被災
  • 被害の大きな地域では自治体職員や学校職員等が被災し、避難所の開設・運営に支障をきたす。
在宅避難
  • 各人の生活状況把握や必要な支援の提供といった、避難所で実施している被災者への支援が、在宅避難者には十分に行き届かない。
  • 地震によって住宅の耐震性能が低下している中で、余震により在宅避難している自宅が被害を受けることで、在宅避難者が被災する。
  • 障がいや介護、ペットを理由に避難所に避難できない人が自宅等に残っており、その存在を行政が把握できない。
  • 災害に驚いて逸走やケガをするペットが発生する。
屋外避難
  • 自宅に残った人、避難所等へ避難した人ともに、余震が怖い等の理由で屋外に避難する人が発生する(屋外避難者は人数が把握しづらくなるとともに、特に冬季は問題が深刻になる)。
  • 避難所には自動車による避難者も多く、学校等のグラウンドは自動車で満杯となる。
飲料水や食料などへのアクセスはできるだろうか
では、避難所に避難できた、あるいは在宅避難ができた後、飲料水や食料などにアクセスできるだろうか。
発生直後から数日間と、1週間後の状況が述べられているのだが、見通しは暗い。少なくとも1週間は、外部からの支援による飲料水や食料は到達しないだろう。例えば地震だけでもかなりの被害が出ることは十分予測はつく。これに加えて、津波被害が市の湾岸地域を中心に発生することを考えれば、現在湾岸を通っている高速道は寸断されることも考えられるので、報告書の被害想定は十分現実性があると思われる。
飲料水・食料等 先発地震発生後の被災地域外の様相
地震発生直後~数日後
  • 先発地震に伴う物流の混乱や、今後の発災への不安感による買い占め等に伴って、生活に必要な物資が不足する。
  • 先発地震の被災地で工場、倉庫、物流センター、港湾、高速道路、鉄道、空港といった物流上重要な施設・インフラが被災したり、通信網の寸断や情報システムの損壊によって商品の受発注が混乱したりすることで、被災地域外でも物資の供給が困難になる。
  • 食品や製品のサプライチェーンが寸断されると、それらの製造が滞り、生活に必要な物資が不足する。
  • 南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)の発表に伴って、事前避難対象地域内等の運送業や卸売・小売業等の事業継続に支障を来し、生活に必要な物資の不足につながる。
概ね1週間後~
  • 南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)の発表から1週間が経過しても、先発地震に伴う被害もあり、物流が十分に回復しない中で、平常時と全く同様の生活に戻ることは難しい。
飲料水・食料等 後発地震発生後の被害様相
地震発生直後~
  • 【被害軽減要素】一方で、先発地震の発生により備蓄物資を点検・補充する動きもあり、物資不足を防止出来る場合も生じる。
  • 【被害拡大要素】先発地震にあたって支援物資を送り込んでいる中で、全国的に物資が枯渇してしまっており、後発地震の被災地には十分な支援物資が届かない。
  • 【被害拡大要素】事前避難に伴って、物流の担い手(運送業者、卸売・小売業者等)が地域から不在になっており、地域の物流が維持されず、生活に必要な物資が枯渇する。
  • 【被害拡大要素】後発地震が現実のものになったことで、今後の物資不足への不安感がさらに強まり、被災地内外での買い占めが顕著になる。
概ね1日後~数日後
  • 【被害拡大要素】先発地震に伴って生じていた全国的な物資供給の困難が継続する中で、後発地震の被災に伴ってバックアップ拠点も機能しなくなり、物資供給の困難がさらに悪化する。
燃料 先発地震発生後の被災地域外の様相
地震発生直後
  • 南海トラフ地震臨時情報の発表に伴って、今後の災害発生への不安から多くの人が車の給油に向かう。各給油所でガソリン不足が発生する。
概ね1日後~数日後
  • 先発地震の被災地域で製油所・油槽所等の被災が生じ、原油の精製機能や石油製品の出荷・受入機能等が低下することで、先発地震の被災地域外でも燃料や石油製品等の入手が困難になる。
  • 全国的な燃料不足の中で、先発地震の被災地域外でも、軽油・ガソリンの供給不足による物流の停滞・遅延や、それに伴う自動車用燃料、非常用電源用燃料、暖房用燃料の不足等が生じる。
  • 事前避難対象地域の周辺を中心に、交通機関の停止や、従業員の事前避難に伴って、地域への燃料の搬送が滞る。
概ね1週間後~
  • 先発地震の被災地域外でも、電力会社へのLNG等の供給不足による計画停電等の電力の需要抑制の必要が生じる。
  • 燃料供給不足が全国に広がる中で、石油化学製品の供給縮小・停止により、先発地震の被災地域外でも製造業のサプライチェーンが滞り、経済に影響が出始める。
  • 元売各社は相互に連携して製油所等の燃料供給体制を整える。また、油槽所等への石油製品の輸入が行われる。
燃料 後発地震の発生後の被害様相
地震発生直後
  • 【被害拡大要素】先発地震によって燃料不足が既に生じている場合で、後発地震に備えた燃料等の備蓄が十分に行われていなければ、後発地震の発生直後から、緊急車両・ヘリコプター等への燃料供給の困難が生じ、応急救助活動に支障を来す。
  • 【被害拡大要素】先発地震の発生後にも被災地域外の製油所・油槽所、港湾等で維持してきた原油の精製機能や石油製品の出荷・受入機能等が失われ、燃料不足が加速する。
概ね1日後~数日後
  • 【被害拡大要素】先発地震によって燃料不足が生じている場合、発災前からの非常用電源用の備蓄燃料が尽きると、ライフライン(上下水道、通信施設等)の停止や医療機能の停止に直結する。
概ね1週間後~
  • 【被害拡大要素】2度の地震を通じて燃料不足が拡大しており、被災地内外の製造業のサプライチェーンの滞り等、企業活動の継続困難が顕著になる。
  • 元売各社は相互に連携して製油所等の燃料供給体制を整える。また、油槽所等への石油製品の輸入が行われる。
飲料水や食料、そして燃料にしても、後発地震発生後は、被災地域外でも混乱や品不足が発生すると予想されている。概ねどの地域であっても被害拡大は避けられないと考えてよいだろう。特に十分に予測されることだが、物資供給のための情報システムダウンがあらゆる支援に支障を来していくことがわかる。燃料切れによる電力停止は、輸送だけでなく医療や暖房など生活はもちろん、命にかかわる事態を招きかねない。こうした事態に対応するための備えを真剣に考える必要があるのだろう。

次回以降もライフラインや交通、医療などについて確認していく。
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