町会とは異なる分譲マンションでの防災
分譲マンション(以下マンション)における防災訓練は、町会とは少し性格が異なる。
そこには必ず、「管理」と「自治」という二つの軸が存在するからだ。
非常用発電機、受水槽、エレベーター、防災倉庫。
多くのマンションは、設備という点では、地域の中でも比較的恵まれている。
しかし一方で、それらの設備を「誰が」「どこまで」「判断して」使うのかという点になると、途端に曖昧になる。
防災訓練は行われている。
だがそれは、設備の説明会で終わってはいないだろうか。
あるいは、管理会社主導のマニュアル確認に留まってはいないだろうか。
地区防災計画の観点から見ると、
マンション防災訓練には、もう一段深める余地がはっきりと存在している。
避難しないことを前提にする防災
マンション防災を考えるうえで、
まず共有すべき前提がある。
多くの居住者は、避難所へ行かない。
行かないというより、
「行かなくて済む」「行けない」「行く必要がない」
そう判断されるケースが大半である。
つまり、マンション防災訓練の本質は、
避難訓練ではなく、
「建物の中で72時間をどう耐えるか」を共有する訓練である。
これは町会防災とは、スタート地点が異なる。
次のステップとして見えてくる論点
避難所開設訓練の延長ではなく、
マンションだからこそ浮かび上がる論点がある。
例えば、
- 非常用発電機は、停電後いつ、誰が、どう動かすのか
- 管理会社と連絡が取れない場合、判断権限はどこに誰にあるのか
- 管理規約は、非常時にどこまで柔軟に扱えるのか
これらは、平時にはほとんど意識されない。
しかし災害時には、必ず問題として表面化する。
重要なのは、
結論を出すことではなく、境界を確認することである。
設備を「動かす」訓練へ
マンション防災訓練で、
次に進むための最も現実的な一歩は、
設備を「説明する」訓練から、
実際に「触ってみる」訓練へ移行することである。
- 非常用発電機の起動を、実際にやってみる
- 非常照明がどこまで点くのかを確認する
- 給水ポイントまで、実際に歩いてみる
これだけでも、
「使えると思っていたものが、意外と使えない」
「思ったより時間がかかる」
といった現実が見えてくる。
また年1回の消防訓練をうまく利用して、
防災訓練を重ね合わせるという手もある。
単にチラシやパンフを配るだけではなく、
実際に手を動かし、体を動かして
時間を共有することが訓練の基礎になる。
無理に合意をつくらない
マンション防災で最も気をつけるべきは、
訓練の場で合意形成を急がないことである。
ペット同行避難。
在宅勤務者の役割。
高齢者世帯への支援。
どれも重要なテーマだが、
正解を出そうとすれば、必ず摩擦が生じる。
だからこそ、防災訓練ではこう割り切ってよい。
- 結論は出さない
- 意見が分かれた点を、そのまま残す
- 「決めきれないこと」を共有する
これだけで、災害時の混乱は大きく減る。
マンションの役割とは何か
マンションは、地区防災計画において、巨大な在宅避難拠点である。
マンションが自立して72時間を耐えられるかどうかは、
地域全体の防災力に直結する。
マンション防災訓練の「次」とは、
設備を動かすことそのものではない。
判断の境界を、平時に確認しておくことがスタートラインなのである。
<山口 達也>


