アイナ・ジ・エンドと「キリエのうた」

コラム
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もう元Bishという肩書も不要なほど、「革命道中 – On The Way」のアイナ・ジ・エンドには勢いと迫力がある。
年末の紅白歌合戦で初めてみた方も多いかもしれないが、TVアニメ「ダンダダン」のテーマソングとして採用されている。このアニメとともに韓国や東南アジア等でもブレイクしている。一発撮りで知られている「tiny desk concerts JAPAN版」が一番衝撃的かもしれないので知らない方のために。

アイナ・ジ・エンド「革命道中ーon the way」(注意:音でます)

https://youtu.be/EaBJa_vVSrk?si=BP0NYQOtV57CZjR8&t=445

でも、この今をときめくアイナ・ジ・エンドを初めて知ったのは、岩井俊二監督が描いた「キリエのうた」だった。

『キリエのうた』が描いた震災の傷跡

映画『キリエのうた』が描いた震災の傷跡は、
「失ったこと」そのものよりも、失ったあとに人が抱え続けてしまう“語れなさ”と“つながれなさ”だったと感じる。

この作品で震災は、前面に出てくる大きな事件として描かれない。
瓦礫も、津波の映像も、説明的な被害描写もほとんどない。
それでも、登場人物たちの沈黙や距離感、言葉の届かなさの奥に、
震災が時間をかけて人の内部を変質させた痕跡が、確かに残っている。

傷は「記憶」ではなく「関係性」に残る

キリエが抱えている痛みは、
「何があったのか」を思い出す苦しさではない。
むしろ、それを他者と共有できないことにある。

震災は、多くの人にとって「語るべき物語」を奪った。
語ろうとすれば重すぎる。
語らなければ、何もなかったかのように日常は進んでいく。

その宙づりの状態が、
人と人の間に見えない断層をつくってしまう。

『キリエのうた』で描かれる人物たちは、
皆、誰かと一緒にいるのに、どこか孤独だ。
それは震災が「心に傷を残した」というより、
心が誰かに触れることを、慎重にさせすぎてしまった結果のように見える。

声を失うということ、声を出すということ

キリエは「歌う」存在でありながら、
同時に「うまく話せない」存在として描かれる。

これは象徴的だった。
震災後、多くの人が経験したのは、

  • 正確な言葉が見つからない
  • 感情を説明すると嘘になる気がする
  • だから黙るしかない

という状態だった。

言葉は壊れた。でも、声そのものは残った。

歌は、意味を説明しない。
正しさも主張しない。
ただ、震えとして外に出ていく。

この映画が「物語」ではなく「うた」を選んだ理由は、
震災の傷が論理や説明では癒えない場所にあったからだろう。
その叫びにも似た「うた」を歌っているのがアイナ・ジ・エンドだった。

時間が解決しなかったもの

震災から年月は経っている。
社会は復興し、日常は再構築された。

それでも、
「前に進めなかった人」
「立ち止まったままの感情」
「理由のわからない孤独」
は、確かに残っている。

『キリエのうた』が描いたのは、
時間が解決しなかった側の現実だ。

それは決して特別な人の話ではない。
多くの人が、
「もう大丈夫なはずなのに、なぜか空虚」
という感覚を、どこかで抱えてきた。

この映画は、その感覚を否定しない。
名前をつけようともしない。
ただ、そっと隣に置いてみせる。

震災が残したものは「沈黙の質」だった

『キリエのうた』を観て強く残るのは、
悲しみよりも、静けさだ。

それは忘却ではない。
克服でもない。

生き延びた人たちが、それぞれの仕方で抱え続けている沈黙だ。

震災のもたらした心の傷跡とは、
「大きなトラウマ」というより、
人が他者に触れるときの距離感そのものを変えてしまったことだったのではないか。

だからこそ、この映画は叫ばない。
説明しない。
代わりに、かすかな声で、うたう。

その声に耳を澄ますこと自体が、
私たちがまだ終わらせていない震災との向き合い方なのだと感じた。

(左がアイナ・ジ・エンドで右は広瀬すず)

2023年10月13日からの公開予告編

<山口 達也>

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