市民の財産権、教育自治を奪う行政の裏切り-6

レポート
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教育的必要性の議論が欠如した市立高校の府移管(下)

大阪市立高校の府への移管と無償譲渡はどこで決まったのか?

前回紹介した矢野裕俊氏の意見書から、大阪市立高校の廃止や府への移管、また教育財産の無償譲渡について、教育的観点から決められたことではないことが明白となった。では移管の話はいつ、どこで決まったことなのだろうか。

事の始まりは、市立高校の府への移管が行われる10年前にさかのぼる。矢野氏の調査によると、市立高等学校の府への移管については、2012(平成24)年5月に行われた第10回府市統合本部会議で、はじめて言及されている。府市統合本部は、橋下徹府知事(当時)が大阪市を廃止し特別区を設置する「大阪都構想」を実現、具体化するため設置された部門。大阪府と市が共同で運営する形式をとっているが、それぞれの議会で議論されることが無く、多くのことがこの統合本部の段階で決められていた。
会議では、府と市で「類似重複している行政サービス」=いわゆる二重行政の一つとして府立高校、市立高校、特別支援学校を大阪府に一元化する、という考えが理由も明示されないまま議案として示されている。つまり、2015年に行われるいわゆる「大阪都構想」の住民投票で大阪市を廃止するということを見越して、二重行政の解消を既成事実化するための手段として高等教育と特別支援教育の府への一元化が行われようとしていたわけだ。
このことは議事録にも明確に残されている。第14回府市統合本部会議(2012(平成24)年6月19日)では、「高等学校につきましては、地域間で課程や学科等が偏在しないように整備することが必要でございます。そのためには広域的視点での対応が効果的・効率的でございますので、新たな大都市制度移行時にあわせて、広域自治体に一元化していくというのが基本的な方向性と考えております。続きまして、51ページの特別支援学校でございますが、これらにつきましても、大都市制度移行時にあわせて広域自治体に一元化していくと。今後移管に向けた課頓を整理することといたしております」と京極努事務局次長(当時・大阪市副市長)が述べている。

矢野氏は、決して府立と市立の高等学校の併存が「類似・重複する行政サービス」ではないことを明示したうえで、強行された市立高等学校の府への移管をには二つの重大な問題点があるとしている。
第1点
  • 府市統合本部会議による高等学校の府への一元化という方向性が地方教育行政の意思決定の仕組みを無視したものである。
  • 府市統合本部会議が行われる以前に、府と市の教育委員会は、市立高等学校の府への移管をめぐって全く議論していない。
  • 府市統合本部会議に教育委員会関係者が出席していない。
すなわち、教育行政の責任主体である教育委員会とは別のところで決定されていることは、本来行われるべき手続きを逸脱しているという点。
第2点
  • 「類似・重複する行政サービスの整理・統合」は大阪市を廃止するという「新たな大都市制度移行」を見込んだもの。
  • 2015年5月の住民投票で大阪市廃止は否決され、高等学校の府への一元化は根拠を失った。
教育委員会という本来の場で議論のないまま府への移管が強行されるのは、大阪市(地方行政)が長年築いてきた高校教育の制度や教育的役割といった教育権限の全体(自治)を失うことである。

松井大阪府知事の大阪市教育行政への越権的発言と吉村大阪市長の同調

2015年で根拠を失い、府市統合本部も廃止されたにもかかわらず「大阪市高等学校の府への移管」が次に顔を出すのが、大阪市戦略会議での議題だ。
大阪市戦略会議は、2004(平成16)年に關淳一市長(当時)によって設置された会議体で、「市政運営の基本方針、重要施策その他の市政の重要事項について、都市経営の観点から迅速かつ戦略的に決定し、市政を総合的かつ効率的に推進するため、定例的に開催」するとされている。
2020(令和2)年11月18日に行われたこの会議に、「大阪市立の高等学校等の大阪府への移管について」という議題が上がっている。戦略会議は一般行政に関わる会議であり、その中には、教育長をはじめとする教育委員会はメンバーに入っていない。この議題については、市教育委員会事務局を代表して教育次長が移管計画の細部について資料を用いて説明している。ここで提示された「大阪市立の高等学校等の大阪府への移管について」(※2)という資料には、「戦略会議で決定いただきたい事項」として「平成26年1月29日の戦略会議で決定した、大阪市立の高等学校の大阪府への一元化に向けた基本的な考え方(以下「旧移管計画」という。)について、「大阪市立の高等学校等移管計画(案)」(以下「新移管計画案」という。)に基づく方針へ変更すること」が示されている。

なんと、第1回目の住民投票前に決定したという2014年(平成26)年1月の戦略会議の決定事項が亡霊のように登場しているのだ。平成26年1月29日の戦略会議での決定とは、府市統合本部会議と同時に行われた会議での「特別支援学校・高等学校の大阪府への移管について」という議題のこと。つまり、先に述べた「大阪市を廃止」するという前提で決定した内容を持ち出してきたわけだ。なぜこのようなことが可能だったのかは、この時の決定事項の内容にある。
議事録には、「市立の特別支援学校は平成27年4月に、高等学校は新たな大都市制度への移行時に府へ移管することを決定した。ただし、大阪市立高等学校は、関係者理解など条件が整い次第、府へ移管することとした」と記録されている。(※3) この日の会議は全体で約30分という短さだ。
つまり、過去の戦略会議の決定を持ち出して移管を決めているのだが、大阪市戦略会議は教育行政における決定権限をもたない。この日出席している市長も市教育委員会事務局も、法律で定められた適正手続きを経ず、資料の説明だけで了承を取り付けている。
そしてこの日同時に配布された資料の中に、2022(令和4) 年4月の府への移管、土地・建物等の市の財産の府への無僻譲渡が明記されている。が、その根拠についての説明は全くない。

矢野氏の調査によると、2018(平成30)年8月に当時の松井知事が大阪市の高校を府に移管することを早期に実施するよう指示をした記録があるという。
以下、意見書から引用する。
2020年11月18日の市戦略会議で出された「大阪市立の高等学校等の大阪府への移管に向けた基本的な考え方について」は、2019(令和元)年8月に大阪府・市の両教育委員会で識決され、「大阪市立の高等学校移管計画」は2020(令和2)年8月に府・市の両教育委員会で議決されたことになっている。
2019(令和元)年8月27日の第17回市教育委員会会議録によると、(中略)住民投票の結果を受けて、府市統合本部は廃止され、府立と市立の高等学校の一元化の方向性も今後は前提とされないこととなったが、その後2018(平成30)年8月に「大都市制度特別区設置協議会の後に、当時の松井知事から、高校は広域が担うべきで、早期に府市で議案として府議会、市議会に提案したいという発言があり、それを受けた形で吉村市長からも大都市制度の議論とは別に府市で協議を早く進めて、高校については早期に移管をという指示があった」ことから、市立高等学校の府への移管という方向づけが再度出てきた、というものであった(※4)
つまり、市立高等学校を府へと移管することを決定づけたのは、松井前大阪府知事の「早期に移管を指示」する発言と吉村前市長の指示によるものだったということだ。
教育委員会でも市長が招集する総合教育会議の場でもない。ましてや、2020年に2回目の住民投票で否決された大阪市を廃止して特別区を設置するための協議会の場だ。
しかも大阪府の知事が大阪市の高等学校のことについて指示をするという、地方教育行政法を無視し、職務権限を逸脱した知事と市長の独断によるものだったことが明確に語られている。
そして教育委員会の場では、大阪市の高校を廃止し府に移管するという運営の根幹に関わる問題について、議案としては出されてはいる。しかし、2度目の住民投票による否決という結果にもかかわらず、移管に関しての再検討は行われていない。意見書では、次のように語られている。

令和に入ってからの一連の教育委員会会議の会議録を読めば、市立高等学校の府
への移管はもはや変えようのない既定の方針ででもあるかのような質疑が教育委員と事務局の間で繰り返し交わされており、この問題についての教育委員会の基本的姿勢はきわめて無自覚なものとなっている。本来抜本的に見直すべき再編整備計画を見直すことなく、かつて府市統合本部において定められた「府への一元化」の方向性が、疑いももたれずに受け入れられ、法令に準拠した適正手続きをとることなく市長により強引に進められた市立高等学校の府への移管とそれに伴う市の教育財産の府への無償譲渡を追認してきた。

意見書の結論として、大阪市立高等学校の府への移管について厳しく指摘されている。
もう一つの地域の教育の基本的なあり方を示す大綱=大阪市教育振興基本計画は、2011(平成23)年3月に策定された「大阪市教育振興基本計画一ええとこ伸ばそ大阪の教育」が10年計画としてあったが、同年11月27日の市長選挙で誕生した橋下徹市長の意向を受けて、2013(平成25)年3月に大きな内容の変更を伴って改訂された。
しかし、大阪市教育振興基本計画は、(2016(平成28)年3月く表2の1次改訂の変更>)に改訂されるものの、住民投票前の「大阪市立の高等学校の特色の府への継承」と府立と市立の統合を進めるとの記載はそのまま残されたままとなっている。
その後、総合教育会議で了承された2021(令和3)年3月(2次改訂の変更)の大阪市教育振興基本計画では、「市立高等学校の将来構想の検討」という項目が記載されている。

矢野氏の意見書では次のように指摘されている。
  1. 大阪市立高等学校の府への移管は、地方教育行政法の定めて基づいて行われたものではなく、むしろ同法に違反した、首長の独断ともいえる方針の表明により進められた施策であり、それには必然性も妥当性もないことが明らかである。
  2. 大阪市立高等学校の府への移管とそれに伴う教育財産の無償譲渡は、住民投票で否定された府市統合に固執して進められた施策であり、合理的な根拠をもたない。
  3. 市長の専決により進められた大阪市立高等学校の府への移管とそれに伴う教育財産の府への無償譲渡は、①と②からも不当であり、撤回すべきである。
  4. 市長に追従し、十分な議論をすることなく、法的根拠をもたない施策を追認した市教育委員会は合議制の行政委員会としての職責を果たさず、議決の過程においても重大な瑕疵があり、形式的に行った自らの決定を撤回すべきである。とりわけ、府への移管と教育財産の無償誼渡の是非をめぐる議論を回避してきたことは重大な責任放棄である。
最後になるが、意見書の中で矢野氏は、大阪市立の高等学校が地域の教育に果たしてきた貢献についても詳細に説き起こしている。大阪市の高等学校教育の特色や社会的意義、全国的にもユニークな高等学校教育を開発してきた市教育委員会の手腕を評価されている。次のように結ばれている。
移管によって、市立高等学校の運営を通してこれまでに長年にわたって市に培われてきた、そうした教育資産が投げ出されてしまったのである。設置管理者の移行によって、それらの散逸、拡散、消滅のリスクが高まることが深刻に危惧されるのである。

※2「大阪市立の高等学校等の大阪府への移管について」
https://www.city.osaka.lg.jp/seisakukikakushitsu/page/0000513497.html


※3「特別支援学校・高等学校の大阪府への移管について」
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10218804/www.city.osaka.lg.jp/seisakukikakushitsu/page/0000254958.html


※4 2019(令和元)年度第17回大阪市教育委員会会議録
https://www.city.osaka.lg.jp/kyoiku/cmsfiles/contents/0000479/479236/kaigiroku17.pdf

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