プラスチック汚染を終わらせる:法的拘束力のある国際約束に向けて
8月15日、スイス・ジュネーブで開かれていたプラスチックによる環境汚染防止に向けた国際条約づくりの政府間交渉委員会が合意できないまま終了した。
海洋排出をはじめとするプラスチックによる環境汚染防止に関する国際条約は、今年もまた合意、採択には至らなかった。
プラスチック廃棄物による環境汚染は、解決すべき世界的な課題として認識されてきた。しかし、大量生産、大量販売、低価格、高性能といったプラスチックの持つ機能性と経済合理性という側面から、毎年4億トン以上のプラスチックが生産され、毎年約1,100万トンのプラスチックごみが海に流れ込み、深刻な海洋汚染を引き起こしている。プラスチック汚染は海洋だけでなく、ポイ捨てや紫外線などによって劣化・破損し、マイクロ化、ナノ化して地球のあらゆる地域に汚染を広げ、また生物の血管や脳内までを汚染している。人体への侵入だけではなく、最近は人工芝が劣化することによって、永遠の化学物質といわれるPFASが排出されるという研究発表もされるなど、汚染が様ざまな形であらゆる環境に影響を及ぼしている。
世界のプラスチック年間生産量と廃棄量
経済協力開発機構(OECD)の報告書(2022年)では、世界のプラスチック生産量は、1950年から2019年までの約70年間で、200万トンから4億6000万トンへと230倍に増加。2019年時点での統計では、世界のプラスチック年間生産量は約4億6000万トン、3億5300万トンのプラスチック廃棄物が発生している。今後の予測として、2050年までに250億トンのプラスチック廃棄物が発生し、120億トン以上が埋め立てや自然投棄されると予測されている。
こうした事態を背景に、第5回国連環境総会再開セッション(2022年3月)で、「プラスチック汚染を終わらせる:法的拘束力のある国際約束に向けて」が採択され、プラスチック汚染に関する政府間交渉委員会が設置されることになった。深刻化するプラスチック廃棄物による環境汚染に対応するための国際条約を採択することを目的に、2024年内の合意を目標として進めてきた。
これまで計5回の会合が持たれ、先進国、発展途上国、新興国合わせて国連加盟国の大半が参加してきた。

プラスチック汚染に関する政府間交渉委員会
昨年開かれた第5回は採択に向けた最終局面ということもあり、170カ国以上が参加。第4回までに生産、使用・消費、廃棄物管理など多くの分野で条文の原案が固まっていたが、プラスチックの生産規制導入で複数の国が規制推進と反対で対立し、合意に至らなかった。
今回は184か国の国連加盟国、関係国際機関、NGO等約3,700人が参加し、10日間の予定で始まった。課題は、昨年合意に至らなかった最大の争点である「プラスチックの生産規制」に関する条項をはじめ、積み残しとなった3点と思われる。
- 生産規制=生産削減に関する具体的な目標設定
- 資金調達=汚染対策のための資金確保
- 公平性の確保=条約の履行が公正に行われるか
特に大きく報道されているのは生産規制に関する条項についてのものが多く、前年同様、欧州連合(EU)や太平洋島しょ国などが規制の必要性を主張。これに対し、サウジアラビアをはじめとするプラスチック原料となる石油の産油国、またプラスチック産業や従業員に損害を与えるとして米国が強く反対した。会期を1日延長し、議長(エクアドル)から各国の妥協を引き出す妥協案も提示されたが
両者の溝は埋まることなく、昨年に続き合意には至らなかった。
環境省報道発表では、以下のように報告している。
今回の再開会合では、昨年末の第5回政府間交渉委員会(INC5.1)で作成された議長テキストを元に、4つの作業部会に分かれて前文から最終規定に至るまで条約全体の案文について、交渉が行われました。
この過程において、
- 目的(第1条)、製品設計(第5条)、放出・流出(第6条)、廃棄物管理(第7条)、既存のプラスチック汚 染(第8条)、公正な移行(第9条)、履行・遵守(第12条)、国別行動計画(第13条)等については、具体的な文言交渉を通じて条文案の最終化に向けた議論が進展しました。
- 他方で、生産、プラスチック製品(第4条)、資金(第10条)、締約国会議(第18条)等については、各国間の意見の懸隔が大きく、意見の収斂に至りませんでした。
- 手続規定の一部(脱退(第29条)、寄託者(第30条)、正文(第31条))については作業部会で意見が一致し、法的な確認作業が行われました。

OECDが2024年10月に行った報告書では、世界の生産量は2040年に7億3600万トンを超え、2020年に比べて約1.7倍になるという。また別の推計予測では、毎年約1,100万トンのプラスチックごみが海に流れ込み、この状況が続けば2050年には海の魚の重量よりもプラスチックの重量が上回るという。プラスチックは鳥や魚類など生体への影響もあれば、劣化により環境かく乱物質が溶出もする。全生物への脅威となっている現在の状況を何とか転換しなければ、引き返せない事態に到達するかもしれない。プラスチックごみ問題は、気候変動問題と同様危機的状況にあるといってもいい。
国家間だけでなく、自治体レベルでも積極的な対応が求められている。政府間交渉委員会では、国際ネットワークの「持続可能な都市と地域をめざす自治体協議会(ICLEI)」が交渉の過程を通じ、地方自治体が主導的な役割を果たせるよう働きかけている。次回は、地方自治体の役割などについて、ICLEIの主張を読みながら考えていこうと思う。