論考

問題だらけの「大阪府市広域行政一元化条例」

written by
幸田 泉

大阪府及び大阪市における一体的な行政運営の推進に関する条例について

←これが正式な条例の名称で、通称、大阪府市広域行政一元化条例※と呼んでいたモノです。(しかも直前に、一元化 → 一体化、に表現が変わったようです)

◆大阪都構想の代替策が条例?

「大阪市が持っている権限、力、お金をむしり取る」と宣言した大阪府知事がいた。大阪都構想を掲げて誕生した地域政党「大阪維新の会」(以下、維新)の橋下徹・初代代表だ。橋下・元維新代表は大阪府知事だった2011年6月、自身の政治資金パーティーで、大阪都構想とは大阪府が政令指定都市、大阪市の権限と財源を「むしり取る」のが目的だとはっきり述べている。

2012年8月、維新は「大阪市廃止・特別区に分割」(大阪都構想)を可能にする法律を国会で成立させるのに成功した。しかし、2015年5月、この法律に基づき実施された大阪市民の住民投票で否決され、当時、大阪市長だった橋下・元維新代表は政界を去る。松井一郎・大阪市長と吉村洋文・大阪府知事がツートップとなった維新は、大阪都構想にこだわりを捨てず再チャレンジし、2度目の住民投票に漕ぎ着けるが、新型コロナウイルス禍の2020年11月1日に行われた2度目の住民投票で、大阪市民の下した結果はまたもや否決だった。

2度目の住民投票から4日後の2020年11月5日、松井・大阪市長は記者会見で「広域行政を大阪市と大阪府で一元化する仕組みを条例で定める」と発言した。ここで言う広域行政とは、都市インフラ整備や成長戦略のことだ。政令指定都市の大阪市は市域内の大規模開発を実施する都市計画権限を持っており、この権限と財源を大阪府が大阪市から取り上げようというのが大阪都構想の肝だった。維新は10年がかりで実現を目指したが住民投票に阻まれるため、「条例化」という次の手が出てきたというわけだ。条例ならば、住民投票は必要なく大阪府市両議会の議決だけでよい。大阪府議会は維新が過半数あり、大阪市会は過半数ないが公明党会派を抱き込めば成立する。

◆どうやって広域行政を一元化する?

大阪府と大阪市の広域行政を一元化する条例は、2020年12月28日と2021年1月22日の副首都推進本部会議で骨子が公表された。まず、現在は大阪府知事と大阪市長の私的サロンのような副首都推進本部会議を地方自治法上の「指定都市都道府県調整会議」とする。ここで大阪市域の都市計画のうち「広域的」とされる事業について、府知事と大阪市長が協議。基本方針がまとまれば、より具体的な計画策定に進むが、通常であれば大阪市が計画策定するところ、大阪府に「事務委託」をする。計画が策定されればそれに従って、大阪府と大阪市がそれぞれ事業実施を進めていく。

そこで問題になるのが、まず副首都推進本部会議は府知事が本部長で大阪市長が副本部長である点だ。大阪市域の都市計画について大阪市長ではなく府知事が主導権を握り、地元の大阪市民の意向が反映されない可能性がある。

次に、計画策定を大阪府に「事務委託」する点だ。自治体間の事務委託は「できないことを代わりにやってもらう」のが原則だが、長年、政令指定都市として大阪市域の都市計画を実施してきた大阪市は、当然ながらその能力がある。一方、大阪府には大阪市域の都市計画に関するノウハウはなく、この事務委託は「できる者ができない者に委託する」という奇妙な構造になるのだ。実際に大阪府が計画策定するとなると、大阪市の都市計画部門の関与なくしては作業できない。大阪府に委託料を払っておきながら、大阪市が汗をかくことになる。

◆いったい何のための条例なのか?

条例の骨子には、「過去の二重行政に戻さない」「府市一体のスピード感を持ったマネジメントが重要」などと意義を謳っているが、大阪都構想と同様、抽象的で効果のイメージはつかみにくい。住民投票時に市民向けに喧伝された言葉が改めて並んでおり、大阪市民が否決した大阪都構想を条例に姿を変えて押し付けるのならば、民意を踏みにじる所業である。住民投票で反対運動に奔走した市民団体などが条例に反発するのも当然だ。

この条例は2、3月の府市両議会に上程され、可決されれば今年(2021年)4月から施行される。維新は随分、施行を急いでいるものの、この条例に則って進めようとしている具体的な事業が控えているわけではない。これまでの経緯と公表されている内容からは、大阪市域の大規模な都市計画を大阪府がリードするのだろうと予想されるが、それによる効果は極めて不透明だ。大阪府にとっても、大阪市にとっても、府民、市民にとっても、メリットははっきりしない。

やはりこの度の条例は、維新の政治的野望の中に目的が潜んでいると考えるべきだろう。大阪市の政令指定都市権限を骨抜きにし、大阪都構想まがいの状況を作り出すために、条例が利用されるようなことがあってはならず、引き続き市民レベルの監視が必要である。