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20210502元文科事務次官 前川喜平氏にインタビュー

受け手
前川喜平氏
聞き手
幸田 泉

元文科事務次官 前川喜平氏に「大阪市生野区小学校再編計画」についてインタビューを行いました。単なる反対とは異なり、俯瞰した位置から大阪市生野区の現状についてご感想及び知見をいただきました。

0:10 学校統廃合と条例化

学校の統廃合は、少子高齢化の中では避けられない問題です。ですが、小学校は既に小学生だけのモノではなく、地域の防災拠点であり、様々な地域の文化発信の場となる非常に重要な地域の財産でもあるはず。それを12学級、つまり1学年がひとつでも40名を切った段階で廃校して統合するという条例化は、あまりに地域事情を考えていないといわざるをえません。地域にはその地域の事情があり、それをしっかり行政は聞いていかねばならないと思います。

1:21 小中一貫制度と学校統廃合

小中一貫制度は元々、学級担任制だった小学校から、教科担任制になる中学校において、不登校になる子供が多いという点から、小中をどう連携させていくべきかということがスタートラインだったんです。その究極が小中一貫校だったり、9年を一括りにする義務教育学校だったりするわけです。

3:08 小中一貫・連携する意味

その中1での不登校問題をどう乗り越えるのか、という話がいつのまにか、小学校の統廃合問題にすり替えられている経緯があります。ここでは東京都三鷹市の例を出して、統廃合せずに連携する方向性について語っていただいています。

4:11 文科省の意図とは

文科省としては、中学校の先生が小学校で英語を教えたり、小学校の先生が総合的な学習を教えたりして、先生同士の交流による修学環境の連続性が重要なのであり、その延長線上に中1での不登校も減るのではないかと考えています。(なかなか地域課題が色々あり、一般化は難しいそうです)

5:03 60年後問題(小中一貫・連携する意味)

6年後の児童数はほぼ確実にわかっていて、60年後は全くわからないのが教育行政です。それをどう予測しつつ、確実に来るであろう少子化に向けて学校をまとめてしまおうかということはどの行政でも頭を悩ませている課題ではあります。

5:29 学級数12-18の意味

1校あたりの学級数は過大規模校を抑止することがスタートラインであり、学校を縮小するために作られた昭和30年代くらいのルールでした。小規模校を統合する論理ではなかったわけです。

6:56 全国的には12学級2クラス/学年未満

大阪だけが特殊なのではなく、少子化は全国で起こっている問題であり、条例で簡単に割り切る話ではありません。1学年が2クラスない学校の方が多くなっており、じっくり構えつつ地域と見つめ合わねばならない問題です。

7:20 小規模校はかわいそう?ICTと交流授業の可能性

クラス15人を割ってしまうとそれなりに問題があると考えます。程度の問題があると思いますが、小規模だからダメということではありません。またICTや交流授業という可能性もあるわけです。

9:16 クラス替えとイジメは別問題

人間関係の固定化の指摘はありますが、クラス替えできない小学校は全国でいっぱいあります。クラス替えができない=イジメが起こる、はちょっと短絡的であり、いじめ問題は別問題として考えるべきでしょう。

10:38 少なくとも30人学級まで

1学年20人だとすごく少ないと言われていますが、コロナ禍の元、30人学級程度がよいのかなーと思っています。つまり31人になると15人と16人に分けるイメージです。
大阪は、政令指定都市の中でも、40人学級をやっている一番遅れている都市ですね。

12:08 コロナ禍で密を避けるため今やるべきではない統廃合に

今後、コロナが変異種となってどう展開していくのかわからない状態において、スケジュールありきで統廃合を進めると必ずそれは「密」に繋がります。少なくとも今、統廃合を進める時期ではありません。(以上)


■編集部から■
統廃合の陰で放置され続ける過密校問題

人口減少による少子化と学校規模の適正化を盾にした統廃合の一方で、大阪市内には、ベビーブーム時代を彷彿とさせる超過密校が多くあり、解決策が打ち出されることもなく放置されている実態があります。2019年(令和元年)5月1日現在の大阪市の統計では、小学校12校、中学校8校でそれぞれ18学級を超えています。中でも、都島区の友渕小学校は、1,2年生を分校化してもなお46学級、阿倍野区の常盤小学校も34学級と、標準を大きく超えているにもかかわらず、この状況の解決に乗り出すこともなく、放置した状態が3年以上続いています。学校規模の適正化を理由に統廃合は進めても、過密校の解消には手を付けないダブルスタンダードを行う理由はもう一つあります。

統廃合を進めるもう一つの推進力となっているのが、国の補助金の基準です。国が定める「適正な規模」に学校を統合する場合、校舎などの施設整備に補助金を出すこととなっています。
統合による補助金と、跡地売却。現在生野区で進められている統廃合は、この2つを推し進めるために、都合よく解釈していることが疑われても仕方のないような強引さです。

 


また幸田泉さんの大阪府への市立高校無償譲渡を含めたレポートはこちら

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