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連続学習会 第2回 大阪市の財政の現状と課題~万博、IRカジノなどの大型開発を進める余裕はあるのか~

木村 収氏
元大阪市大・阪南大教授
撮影編集
UCO

連続学習会第2回
大阪市の財政の現状と課題
~万博、IRカジノなどの大型開発を進める余裕はあるのか~

2025年の関西万博やIRカジノの誘致などの大型開発が進められている大阪・夢洲。さらに大阪駅の貨物ヤード跡地で進められている「うめきた開発」など、続けざまにこのような大規模開発を続けて財政面で問題や心配はないのかという疑問が尽きない。「カジノ反対する団体懇談会」が主催する連続学習会の第2回目は、現在の大阪市の財政と今後について学びます。
大阪市財政局長(1986年)、大阪市経済局長(1992年)を歴任され、大阪市立大学と阪南大学でも教鞭をとられた地方財政学がご専門の木村収先生に、、戦後から現在に至る大阪市政の展開と大阪市の財政、そして現在進められている大型開発事業や新型コロナ感染対策などを見据えた今後の財務についてお話しいただきました。

講師
木村収さん(地方財政学、元大阪市立大学・阪南大学教授)

大阪市が始まって130年がたち、コロナ後の生活や自治がどのようになっていくのか、私たちは岐路に立っています。現在の大阪市が進めている大規模プロジェクトの数々は、私たちの生活にとって、必ず必要なものなのでしょうか。バブル期に行った夢物語をまたあの夢洲の上に積み重ねようとしているのではないのでしょうか。
過去の大阪が行ってきた事業変遷を辿りながら、財政面からどのような課題があり、どのような市政が望ましいのか。地方財政学の木村収先生にお話しいただきました。

以下に要点を抄録します。

なお、youtubeではその1/2/3に分けて全てをサイトアップしています。
その1:大阪市政の展開~戦後から現在~
その2:大阪市財政解説
その3:本年度予算5つの課題

「何もなかった市制130周年」

1889年(明治22年)市制施行により大阪市が発足。そして戦後1956年(昭和31年)政令指定都市になった。そして2019年(令和元年)市制130年があったわけです。10年ごとの節目で言えば、記録集が出たり簡単な冊子が出たりということがあるわけですが、今回は全くありませんでした。市制130周年の前に、大阪港150周年というようなことがあり、市役所の近辺に港ののぼりは出しましたが、市制130周年というのは何もなかった。ただ、そういう節目がつい先日あったと言うことを知っていただきたいと思います。

「税源拡充運動」

戦後、長期的・安定的な税制と税務行政の確立を図るということでシャウプ勧告が出された。地方自治を、市町村を強化すると言う話であったのですが、税制としては非常に都市的な税目が府県に集中したんですね。全国的には市町村の税金が大幅に増えたわけですが,大阪市については、府の税金は大幅に増えたが、大阪市の方が伸びなかった。その後、都市問題がどんどん激化する中で、なんとか税源を拡充したいと言うことで、昭和37年頃から、指定都市まあ、当時は5大都市プラス北九州です。その市長に呼びかけて指定都市としての税源拡充運動に取り組みます。この運動は今日まで続いております。しかし、大阪市はですね、この10数年あまり積極的ではないですね。ただ、議会の活動もここのなかに組み込んでいますから、各党派別の要望で、それぞれが活動しているのは事実であります。ただ、首長さんとしてはですね,まああんまり出席をされてなかったんじゃないかと言うふうに思います。

「職員の採用停止がもたらした大きなひずみ」

1990年代に入ってバブル崩壊という大きな津波みたいなものが来ました。2002年(平成14年)2月には、市長が市会で財政非常事態宣言というものを出します。この時期から厳しい市政改革に取り組まざるを得ないと言うことです。その後を継がれた関市長時代、いわゆる、厚遇問題あるいは同和問題の仕上げの時期で、たいへん苦労されたわけであります。関市長の時代は市政改革、身の丈改革。よく言われたのが横浜市と比べてですね、人口1人当たりの職員が多いんじゃないか?いうようなまあバッシングがされたわけです。
ただ、念のために申し上げると、横浜市と、大阪市というのは都市の内容が全然違います。横浜は夜間人口に対して昼間はですね、ほとんど東京に出て行く、で夜帰ってくるこういう都市であります。大阪は逆に、昼間にたくさんの、国勢調査統計では1.3以上、3割以上も膨らむ都市。ただ実態は、いわゆる3割という膨らみ方は、定時制市民と言われる働きに来たり、学校に行くという人たちによって膨らむ。それ以外に、最近では関係人口というようなことを言いますが、買い物に来たり、遊びに来たり、そういう人たちがたくさん来るというような状況です。
ところがその比較するものはですね、夜間人口に比べて経費が多いじゃないか人が多いんじゃないかと、こういう比較がかなりされて、ここで職員が大幅に減り始めます。極端に言えば磯村市長の時代からですが、職員の採用停止まあ大卒の技術職員も高卒の職員もみんな採用しない時期が何年か続く。技術職に至ってはですね、かなり長期に採用しない。これはまあ大きなひずみを今日の大阪市にもたらしていると思います。

「大阪市の令和3年度の予算」

大阪市の令和3年度の今年4月から始まった予算、これが総額3兆5398億円、こういう規模になります。
この総額、総計予算というのは、すべての会計を集めたものが3兆5398億円。その内訳が各会計歳出予算でこれを見ていただくと、大きくいって一般会計、それ以外に特別会計、政令等特別会計という括りが1つあります。食肉市場事業、駐車場とか国民健康保険、後期高齢者医療事業まで含めた事業で、これが7つありまして全体で6436億という規模です。それ以外に準公営企業会計が3つあります。中央卸売市場、港営事業、これは埋め立て事業と整備事業、それから下水道事業です。それから公営企業会計として、水道事業と工業用水道事業の会計があります。それから公債費の会計があります。借金をしたお金を整理する。こういう体系になっております。
で最初に、大阪市の令和3年度一般会計の予算、1兆8,301億の内訳。これが歳入歳出で上がっているわけです。まあ、市での歳入としては市税の収入、これが1番大きいわけですが、それでも4割を切っている。38.9%で全国的にも3割程度しかない。
それから国、府からの支出金が31%、借金が10%程度。地方交付税、贈与税・交付金というようなものもあります。この中には消費税交付金が含まれます。大阪市では平成元年の決算で行きますと563億円余りあります。
歳出の方ですが、人件費が16%、大きいのはあの扶助費、これは社会保障のお金です。投資的経費と言われるものが1割ちょっとしか無い。高度成長期では、この投資的経費のウエイトがかなり高かったということです。
その他の収入の中に大阪市高速電気軌道会社からの配当金の減などがある、ということが書かれています。民営化した地下鉄の会社からの配当が100億円ぐらい見込まれたんですね。ところがコロナのことで乗客も大幅に減っているということで、配当が0であります。その他の収入というのは、こういう減をしている要素もある。見込んだものが減ると不要な財産を売って穴埋めをしたり、あるいは、財政調整基金というもので穴埋めをするわけです。

「経常収支比率」

財政の状態を1つ見る指標として経常収支比率というものがあります。
この経常収支比率が高いと、当然投資的経費や義務的な経費以外に使えるお金の余裕がないということを示しているわけで、この動向がどういう風になって行くかというのは非常に、大きな関心事であります。
生活保護費などの扶助費や市債の償還のための公債費といった経常的経費が増えるということになりますと、経常収支比率は高くなります。
平成8年から黄線が伸びています。実は平成8年というのは税収的にはですねあの大阪市の税金が1番大きかったピークの時でもあるわけです。その時点では、大阪市の数字は87.4%であった。それがバブル崩壊とともにどんどん高まっていって平成14年には103%、100%を超えてしまうと、これは赤信号どころか具合悪いわけであります。そういう状態になり、以前高止まりしながらずっときております。
大阪市はかなり高かったところが、この令和元年度の数字を見ると93.4とドンと落ちております。
まあ、確かに色々な使い道のやり方、投資的経費を抑えておけば、こういう数字は改善をされていくと言うことになるわけであります。この数字の部分を見ると何か今良くなっているような数字にはなっているわけです。ただ、1年だけこうやって落ちているだけでありまして、今コロナ下で、今後どうなっていくかは反転をした場合に、そのす推移がどうなるか予想がつかないという状態です。

「大阪市は非常に多い財政調整基金」

財政調整基金。大阪市の貯金ということがいわれます。令和元年度末には1,616億円だった。令和2年度末には1,438億円、令和3年度末は1,245億円と、今どんどん減っていってますね。これはコロナ対策とかいうようなことで、例えば学校の給食費まあコロナ対策で昨年コロナが始まった途端に松井市長が給食をただにすると言うことで77億円。財源はもちろん無いわけですから、この貯金からということで、今どんどん使われているんですね。
あの色んな対策で使われているといういうことでありますが、この財政調整基金というのは、大都市の中では、大阪市は非常に多い方ですね。圧倒的に多いということです。

「大阪市の将来の収支見通し」

財政状況を見るための参考資料として、大阪市の将来の収支見通しというのが、毎年の予算の時期に発表されます。通常収支比率というのが予算を組んでますので、令和3年度は貯金を取り崩したりしてすんでるわけです。今後どういう風になって行くかと言うと、補填すべき支出が将来にわたって出てきます。
これは不確定要素がたくさんあるわけですが、はっきりしているものとして「万博関連経費」や「淀川左岸線事業費の増」で収支が悪化する見込みです。
それから期間終盤で高齢化の進展や福祉サービス利用者の増加、投資的事業の財源として発行する起債償還の増が拡大して行きますよと言うような事が書いてあります。

「コロナ対策財源の問題」

国の方で地方創生臨時交付金というものがあります。大阪市には362億円。しかし実際に大阪市がコロナ対策で国からのお金を当てにせずにや自前のお金で対応されないといけないお金が元年度6億円、2年度は851億円、3年度は今の段階で予算に組んでいるのが274億円。今の予算の段階で1,136億円組んでいるということです。
これがどういうふうにさらに増えていくかということですが、コロナ感染症対策といえば国と地方府県と市町村の事務配分で言えば、これは典型的な広域行政の行政体である国と府県が対応すべき問題なんですね。
広域だ基礎だと言ってですね、簡単に分けられるかというのを典型的に示しているのが、このコロナ対策だと思います
府県がこういうことはもう本当に集中的にやるべき、1番中心になってやるべき仕事である、そういう仕組みになっているということですね。
この地方創生臨時交付金というようなお金もそういう仕組みですから、府県の方に集中的に降りてきます。
だけど大都市をはじめ大きな課題抱えておりますけど、もう充分来ていないということが言えます。
ですから、最近の自治日報という、新聞を見ますと、まあ小さな欄でありましたけど、横浜市長、今の指定都市のリーダーが、市長会としてもっと指定都市にこの地方創生臨時交付金を交付すべきだと、1人当たりの交付が非常に、小さいということを言っております。ですから、飲食業に対するあの助成措置でも、松井市長、交付金だけじゃなくて、大阪市も出しますよと言うことで終わらせしてますね。そういうお金は、この大阪市独自の財源でしか対応出来ないわけです。

「市立高校の用地という大変な財産を府へ移管」

市立高校はまもなく府へ移管するんですね。まあ、この問題だけでも大変な問題でお話したいことがいっぱいあるんですが、この移管するときにですね、財産的で申しつけで渡すわけですね。大きな財産、市立高校の用地なんて大変な財産です。この間の市会の議論を聞いていますと、その市立高校の用地が要らなくなった時は、これは府立高校に事業にあてるようなことを言っているようです。けど、おかしいですね。市民が営々としてそうやってきたものに関すると。確かに運営する経費はかかります。ところがです、この経費については、国からの交付税で相当措置される。全部が府の財政負担になるわけではない。ご存知のように、高校再編ということで、募集が悪いとどんどん廃止して行くというそんな流れです。簡単にそれを財産処分されると、大阪市内の学校というは一等地ですよね。そういう問題も抱えているというこれは一方で確かに人件費は減っていくという姿があらわれてくる。

「今後起こるであろう大型プロジェクト」

大規模事業リスクというようなこと、会議をされている時に出された資料のリストです。
夢洲の土地造成事業。
阪急電鉄京都線・千里線連続立体交差事業、大幅に減っています。しかし、問題意識として置いておかなければならない事項。なにわ筋線の整備事業、全体で3,300億円、本市負担が596億円っていうようなこと。それから万博ですね。当初1,250億円の事業費が1,850億円へ改定された。それから淀川左岸線の事業を1,162億円くらと言われていたのが、700億円ぐらい増えると。こういうことでこれは全体の項目であります。まあ相当な負担が生じるということです。

あの都構想が否決されて広域一元化条例というものが、4月1日にできて、今後も大阪市の行財政はますます懸念されるんじゃないか。行政組織が複雑化する、政策決定力、誰が決定しているわからないようになる、政策決定のプロセスも不明確になるんじゃないか。団体意思とか財政自治いうものへの影響というものが出てくるだろうと。そうすると住民の自治の力というものが、大阪市政に反映して行く上でも、受け手が複雑になって、目くらましみたいになっていくんじゃないかと懸念をしております。

以上講演記録より

抄録では「今後起こるであろう大型プロジェクト」については初めの部分しか記載していませんが、ここが最も重要で、果たして大規模プロジェクトの今の予算だけで収まるのか。大阪市民にとっては、コロナ対策や生活困窮対策に予算を回さなくてよいのかなど、大きな懸念と課題が山積していることに気づかされます。
過去10年何が行われてきたか。市の事業を廃止し府の事業と統合する、そういう事業ばっかりだったと。大阪市の家の上に大阪府が乗っかるというような市政運営だったと語る木村先生。果たしてそれが効果があったのか、どういうメリットがあったのかの検証もなく、さらにやり続けようとする市行政。今一度立ち止まって検証することから始めなければならないのではないでしょうか。

[2021年6月11日 更新]

第2回 大阪市の財政の現状と課題
~万博、IRカジノなどの大型開発を進める余裕はあるのか~

4月17日(土) 14:00~16:00
お話  木村 収さん(地方財政学、元大阪市立大学・阪南大学教授)

主催:カジノ反対する団体懇談会
協力:ユーシーオオサカ(大阪コミュニティ通信社)

<当日の資料>
当日の配布資料については、下記にお問い合わせください。
カジノ反対する団体懇談会
薮田 yabuta50@yahoo.co.jp

<行政資料>
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